「撤退」はあり得ないが……追い詰められたトランプに巻き返し策はあるか?
「脱退論」まで出てくる異常さ
メディアは、トランプの発言問題で一色になりました。イランで拘束されていた米国人4人が今年1月に釈放された際に、アメリカ政府が4億ドル相当の現金をイランに空輸していたという「身代金」問題が、この発言とちょうど同じころに浮上したのですが、通常なら大きなスキャンダルとなるこの事件よりも、トランプの発言問題が注目されてしまいました。オバマ政権の弱みをつかんで、クリントン批判と抱き合わせで民主党をたたける絶好のチャンスを、トランプは失ってしまった形です。 予備選の期間は党内での比較でしたが、党大会を終えた段階は本選挙段階のスタートであり、正式に決まった民主・共和両党の党候補に対し、どちらがより大統領としてふさわしいのか、国民がしっかり比較し始めるころです。そのタイミングでのトランプの失言、そして、それを連日、大きく伝える報道が、前述の「トランプは本当にどうしちゃんたんだろう」というような支持率の低迷に影響していると考えられます。 このような数字を見て、各種選挙予測サイトでは、本選挙でのトランプの大敗の可能性を指摘しています。そのうち、「ニューヨーク・タイムズ」のウェブ版の予測では、8月24日の時点で「クリントンが大統領になる確率は89%」と驚異的ともいえる一方的な数字を出しています。あくまでも8月末時点という条件付きですが、このような数字を見ると、トランプの勝ち目はないと思えるほどの状態になっています。 同様の予測サイトの中には、共和党大会が終わったころまでは、五分五分か、トランプの勝利の確率の方を高いとみるものもあったことを考えると、驚きを隠せません。「大統領選挙はすでに終わったようなもの」という声すら、聞こえてきます。 トランプの選挙戦からの「脱退論」まで出てきました。「ウォール・ストリート・ジャーナル」は8月14日の論説で、「トランプがこのような状態なら、選挙戦が本格化する9月はじめのレーバーデーまでに選挙から脱退すべき」といった記事を載せ、大きな話題となっています。同じように、共和党元下院議員で、現在はテレビキャスターとして全米に知られているジョー・スカボロが同様に、「共和党はトランプを切れ」という端的で刺激的なタイトルのコラムを8月9日の「ワシントン・ポスト」に掲載し、これも注目されています。共和党支持者の2割くらいが「トランプは選挙戦から脱退してほしい」と望んでいるという数字もあり、トランプとしては、まさに追い詰められた形となっています。