吉本芸人・しずるーー40代でも稽古で怒られて…。〈今年はライブに役者業に過密スケ〉
東京・本多劇場にて上演中の舞台『天才バカボンのパパなのだ』。現在放送中のドラマ『厨房のありす』でも脚本をつとめる玉田真也が演出を担当する舞台に日替わりで立つのが、吉本興業でいま注目の演劇集団「メトロンズ」の面々。ライス、サルゴリラとともにメトロンズで役者業にも邁進し、今年は舞台、単独ライブ、メトロンズ主演ドラマにと大忙しのコンビ、しずるのお二人に稽古前のタイミングでお話をうかがいました。 【写真を見る】結成から21年、40代になっても走り続ける「しずる」の2人
――稽古場の雰囲気はいかがですか? 村上 勉強させてもらってますね。ああ、舞台ってこういうふうにつくっていくんだあ、って。天才バカボンっていうとコメディのイメージが強いかもしれないけど、今回の舞台は不条理劇なんですよ。勢いで突っ走るだけではおもしろいものにならなくて、細かく見せ方を考えなくちゃいけない。それは演出だけじゃなくて、演じ方にも影響してくるんだなあって、素人ながらに感じています。 KAƵMA 雰囲気はすごくいいですよ! けっこうな長ゼリフがあるんですけど、本職の役者さんたちがアドバイスしてくれたりするのもありがたい。みんなで助け合ってひとつの舞台をつくっていこうぜ、って雰囲気があります。 村上 とにかく脚本がおもしろいから、稽古中もふつうに笑っちゃうよね。しょっぱなから言葉遊びを連発するから、コントみたいなところもあるんだけど、でもやっぱりちゃんと演劇で。浅野(千鶴)さんや市川(しんぺー)さんが演じると、笑えるんだけどセリフの強度に引き込まれちゃうから、さすがだなあと思う。 KAƵMA (脚本の)別役(実)さんはどういう思いで書いたんだろう。全然、わかんないんですよね。観てる分には楽しいけど、別役さんはウケてほしかったわけじゃなくて、ただ自分が楽しいって思うことを書いただけなのかもしれないなあ、とかも思います。 ――メトロンズの舞台では脚本を担当されているから、やっぱり書く側の視点が入るのでしょうか。 KAƵMA どうなんだろう……そうなのかもしれないですね。この舞台、お客さんが観てどう思うのか、全然想像がつかないんですよね。ハマる人には最高におもしろいと思うんだけど「すげえ時間の無駄だった」って思う人も、もしかしたらいるジャンルかもしれない。 村上 スカッと大団円とかどんでん返しのある話じゃないからね。玉田さんがどう解釈するかによっても、オチの雰囲気は変わってくる気がするな。お客さんにゆだねる部分も多そう。どう楽しんでくれても自由っていうか、正解がないからこそ、おもしろい。 KAƵMA ふだんちゃんと生活している人、しなきゃと思っている人ほど、センセーショナルに感じるかもしれない。不条理って、僕たちがふだんあたりまえに過ごしている日常から外れるってことだから。たとえば歯を磨いているとき、いきなり知らない人に殴られて飯を食われて帰られる、なんて常識で考えたらありえないじゃないですか。でも不条理劇では、というかこの脚本では「なんでそうなる⁉」ってことが起きるんで。常識に縛られている人ほど、衝撃が大きくて、おもしろがれるんじゃないかなと思います。逆に、ふだんから破天荒に生きている人は「なにがおもしろいんだ」ってなるかも。 村上 セオリーどおりにきれいなオチがつくのも気持ちいいけど、何かに逆らった流れが生まれるのも、それはそれで痛快なんだよね。でもさ、不条理って意外と理屈が通っていると思うんだよ。市川さんがおっしゃっていたことだけど、登場する人たち全員に、それぞれ理屈があるんです。これって、実は日常にも言える真理なのかも。ただ、誰にも共感してもらえないから、身勝手だとか屁理屈だとか言われちゃう。みんな、ただ自分に正直に生きているだけなのに「なんで今、そういうこと言うの?」って引かれちゃったりさ。 KAƵMA だからお笑いにはツッコミが必要なのかもしれないですね。でも突っ込まれたほうが「いやいやそういうことじゃないんだよ」って反論して、めちゃくちゃな理屈でも相手を説き伏せちゃったら、それは不条理劇になるのかもしれない。 村上 僕、序盤の署長がけっこうむかつくんですよ。でもこれ、たぶん同族嫌悪なんですよね。署長の言ってることはむちゃくちゃなんだけど、理解できる部分もあるから、イラっとする。こういうこと言うやついるよなあ、みたいなリアリティも至るところに散りばめられているから、この戯曲は長く引き継がれてきたんだと思う。