WAT'S GOIN' ON〔Vol. 6〕川淵三郎に噛みついた青森ワッツのゴッドファーザーの郷土愛
常勝だけがプロスポーツチームの存在意義なのだろうか…既存のプロスポーツ観に逆らうようにBリーグ誕生以前から活動を続ける不思議なプロバスケットボールチーム《青森ワッツ》の魅力に迫る。台湾プロバスケットボールリーグの新竹ライオニアーズとのグローバルパートナーシップ締結など、アリーナに収まらない活動を開始した青森ワッツが地元青森にどのような波及効果をもたらし得るのか、また、いかにしてプロスポーツチームのあり方を刷新してゆくのか、その可能性を同チームの歴史とともにリポートする。〔全13回〕
同じゴールを目指せない
「私ね、bjリーグの全球団のトップが集まった会議の席で、直接、川淵三郎さんに噛みついたこともあるんですよ。『勝手ばかり言わんで下さい。そんなんじゃ、やれないから、もう帰ります』ってね」 青森ワッツ誕生の立役者であり、2023年の春まで10年にわたってチーム運営会社の社長、会長を歴任した下山保則(現・顧問)は柔和な表情で、しかしはっきりと言った。 「青森ワッツは『地域を活性化させるためのプロスポーツ』というbjリーグの理念に共鳴して生まれたチームで、川淵さんが最初にぶちあげたような『プロ選手なら最低年棒1000万円』とか、そういう一種の、勝てば官軍的な発想ではスタートしていないんです」 青森銀行の行員として、長年にわたって地域経済の活性化を支援してきた下山には「青森県でプロスポーツチームを持つことの難しさ」が十二分に分かっていた。 「(チーム運営費が)2億になったら、一発でボン! 沈没です。経営のことは、あらかじめ真剣に考えました。青森県では、あらゆるスポーツを通じて、ワッツが初めてのプロスポーツチームになる。うまくいかなかったら、すぐに解散というわけにはいきません。やる以上、長く続けていくための『適度なサイズ』を維持すること。それが勝負の分かれ目になると思っていました」 シミュレーションを繰り返し、下山が出した結論は「資本金で1億。スポンサー収入で1億。それで、年間のチーム運営費を1億円に抑えれば、チケット収入に一喜一憂せずに続けられる」というものだった。そして実際、bjリーグに参加していた期間、青森ワッツの経営は、低空飛行ながらも安定していた。 「もしも川淵さんが求めるような金額、たとえば選手の最低年棒1000万円(×12人)を受け入れるなら、それだけで年間1億円以上の費用がかかってしまいます」 選手たちのギャランティは、運営会社の社員たちの給料や遠征費といったチーム運営費の一部に過ぎない。