政府が大金をつぎ込んでも成功しない「人型ロボット」 知られざる「デジタル赤字」がもたらす絶望的な未来 古賀茂明
■ ロボットが必要不可欠なインフラになる未来 ロボットと言っても用途により、さまざまなタイプのものがある。その中で、人型ロボットには以下のような利点がある。 第1に、その構造が人体に類似していることにより、人が行うことを真似できれば、人と同じことができるようになる。 第2に、人が作業する空間は、人間の体が動きやすいように設計整備されているので、人型ロボットであれば、周囲の環境を大きく変えることなく導入できる。 第3に、第1と第2の特性を維持しつつも、例えば、関節の可動域を人間以上に広げたり、作動させる力を人間より強くしたりすることで、人間の能力を超える機能を持たせることが比較的容易である。 そして今、生成AIの技術が新たな段階、すなわち、文字数字情報ではない動画情報あるいは生の人間の動きそのものを使って学習できる段階に入ったことにより、人型ロボットが飛躍的な進化を始めている。 従来は、人型ロボットにソフトウェアで事前にプログラミングしたり、さらには、人の動きの情報をそのまま一つずつロボットに伝えたりすることで人間と同じ動作をさせることが行われてきたのだが、今日では、生成AIを使うことにより、例えば、ロボットがYouTubeの動画や実際に動いている生身の人間の動きを見て、自ら学び、それと同じ動きをするような学習をする時代になったのだ。さらに、失敗しても、自らその原因を発見し、完璧な動きに近づけるということもできる。 人型ロボットの進化は、驚異的なもので、近い将来、社会維持に不可欠なインフラとなっていくことが確実になってきた。今後人手不足が続く日本や中国などでは、とりわけロボットへの需要が高まるだろう。
■ 世界人口より多くなるロボット では、人型ロボットが急速に普及するとして、いったいどれくらいのロボットが必要になるのだろうか。 EV、スペースXなどで世界をリードする米テスラ社は、同社の人型ロボット「Optimus」に最先端AIを搭載して100億台生産すると発表している。世界の人口80億人より大きな数だ。 生成AIブームの火付け役のOpenAI社も24年3月に1000億円を調達したFigure社を含めて3社に投資するのと同時に自社でもロボット開発を再開した。ロボットが次の主戦場になると見直したのだ。 中国も2025年までに「上級レベル」の人型ロボットを大量生産する計画だ。中国政府は、人型ロボットが、スマートフォンと同様に「破壊的」なものになるとしている。 紹介した動画を全部見ていただくと、米中に比べて、どれだけ日本のロボットが遅れているかがわかる。さらに、中国企業が、最先端を走る米国企業と十分に競り合えるレベルに達していることに驚く方も多いだろう。 ここで、気になるのが、人型ロボット革命のためにどれだけの計算リソースが必要になるのかということだ。 前述の経産省のレポート8ページによれば、学習を1日で終わらせるのに必要な計算リソースは、通常の画像・映像認識ができるようになるためには10P(ペタ)~10E(エクサ)、自動運転の機能を得るための学習には1E、ロボットには1~100Eが必要となるとされる。現状に比べて気が遠くなるような規模の計算リソースが必要だということになる。(キロが10の3乗、その上がメガ、ギガ、テラ。このあたりまでは日常用語になったが、ペタは10の15乗、エクサは10の18乗のことだ) 計算リソースを確保することは、言い換えれば、最先端の生成AI用のデータセンターを確保するということになる。