日本のAI企業が取るべき戦略とは 『AI Index Report 2024』から紐解く、世界のAI業界動向
「人類の未来をAIによってより良いものにする」というミッションをかかげて2019年に設立されたアメリカ・スタンフォード大学の研究機関HAI(Institute for Human-Centered AI:人間中心のAIのための研究所)。同研究所が2024年4月15日、AI業界の現状を包括的に調査したレポート『AI Index Report 2024』を発表した(※1)。 【画像】日本はAIに対して寛容? 人工知能を使った製品とサービスに不安を感じる人が多い国のランキング集計結果 このレポートを閲覧すると、国や組織がどのくらいAI開発に投資しているのか、あるいはAIの性能はどのくらい人間の能力に肉薄しているのか、といったことがわかる。本稿では同レポートにもとづいて、AI開発への投資状況やAI開発をけん引する国や組織を明らかにしたうえで、日本のAI企業が世界と戦うための戦略を考察する。 ■アメリカが生成AIへの投資をけん引 『AI Index Report 2024』第4章「経済」(※2)では、AI開発への投資状況や企業でのAI活用状況をまとめている。まず世界におけるAI開発への投資から見ると、2023年は前年比20%減の約1,892億ドルだった。実のところ、AI投資の減少傾向は2021年から続いている。ただし、これはAI業界全体への投資を含む数値だ。 ChatGPTをはじめとする「生成AI」への投資に限定すると、一転して2023年には爆増しており、2022年比の9倍、2019年比では30倍の約252億ドルであった。こうした生成AIへの活発な投資は2024年も続いており、たとえばイーロン・マスクが率いるAIスタートアップ「xAI」は2024年5月26日、60億ドルの資金調達に成功した(※3)。 2023年における株式公開をしていないAI企業への投資を国別に集計すると、圧倒的1位がアメリカの約672億ドル、次いで中国の約78億ドル、イギリスの約38億ドルという結果に。一方で、日本の投資額はアメリカの約1%に過ぎない約7億ドルであった。 つづいては、企業での生成AI活用状況を見ていこう。企業における生成AI導入率を地域別に集計したグラフがある。 世界平均は33%であり、1位はアメリカを含む北米の40%であった。2位がインドやラテンアメリカ諸国といった発展途上国の33%で、日本を含むアジア太平洋地域は最下位の30%という結果が示された。 日本を含むアジア太平洋地域が最下位になった要因としては、これらの地域の母国語が生成AIが得意とする英語をはじめとするヨーロッパ諸国語と大きく異なっていることが指摘できるかもしれない。ちなみに、生成AI導入率2位のインドでは準公用語として英語が使われ、同じく2位のラテンアメリカ諸国はスペイン語やポルトガル語が話されている。 以上をまとめると、現在のAI業界は2010年代にはじまった第三次AIブームが終焉を迎えたことによる経済的減少傾向と、2020年代になって台頭した生成AIブームによる経済的増加傾向が混在していると言える。そして、生成AIブームをけん引するのは、OpenAIをはじめとする主要なAI企業が本拠地をおくアメリカなのだ。 ■寡占化に向かう基盤モデル開発 OpenAIのGPT-4やGoogleのGeminiは、さまざまなAIサービスに活用される言わば“AIサービスのOS”であることから、基盤モデルと呼ばれる。『AI Index Report 2024』第1章「研究開発」(※4)では、世界における基盤モデル開発状況がまとめられている。 2019年から2023年までに開発された基盤モデル数を、産業界や学界といった開発したセクターごとにまとめたグラフを確認してみると、2020年まではセクター間の差は大きくなかったが、2021年以降、産業界において多数の基盤モデルが開発されるようになる。2023年に産業界の開発した基盤モデル数は108個にものぼり、2位の学界に大差を付けて圧倒的1位となった。 基盤モデル開発において産業界が圧倒的に優位となったのは、こうしたAIを開発するのにかかる莫大な資金を投じられるのがGoogleをはじめとした巨大AI企業に限られるからである。 2023年に開発された基盤モデル数を開発した組織ごとに集計すると、次のような結果になる。1位はGoogleの18個、2位はMetaの11個、3位はMicrosoftの9個、そして4位はOpenAIの7個という順番になった。これらの企業は、AI関連ニュースでもよく言及されるので納得のいくランキングだろう。 2023年に開発された基盤モデル数を国ごとに集計すると、圧倒的1位はアメリカの109個、2位は中国の20個、3位はイギリスの8個となる。4位にアラブ首長国連邦がランキングしているのは、同国が近年AI開発に多額の投資をしているからと考えられる。同国はAIと半導体の商取引に焦点を合わせたテクノロジー投資会社を設立しており、運用資産が「数年以内に1,000億ドルを超える可能性がある」とブルームバーグが2024年3月11日に報じている(※5)。 以上をまとめると、最先端の基盤モデルを開発できるのはGoogleやOpenAIといった資金力のある巨大AI企業に限られるようになると言える。スマートフォンのOSがiOSとAndroidの二大OSによる寡占状態になったように、近未来のAI市場は非常に強力な2、3の基盤モデルによって支配されるようになるかもしれない。