命がけで2000キロの旅 養蚕業の父・上垣守国の功績が漫画に
日本の近代養蚕(ようさん)業の父と称された兵庫県養父市の養蚕家、上垣守国(うえがきもりくに)(1753~1808)の伝記漫画本が発行された。作者で養父市出身の漫画家、コンタロウさん(72)=本名・高階(たかしな)光幸、東京都在住=は「古里の養蚕のレベルアップのため、少年が命がけで遠い旅をして技術を持ち帰った」とたたえている。【浜本年弘】 【写真】繭を前に写真撮影に臨まれた天皇、皇后両陛下と愛子さま 守国は、現在の養父市大屋町蔵垣で、繭を取るためカイコを育てる養蚕農家に生まれた。江戸中期の18歳の時、カイコの卵「蚕種(さんしゅ)」を求めて先進地の福島県を訪ね、帰郷後も地道に研究と実践を重ね、40代で但馬・丹波・丹後を代表する養蚕家になった。 1803年にはカイコの飼育方法などを絵入りで紹介した全3巻の技術書「養蚕秘録」を出版して技術を広め、没後、来日したドイツ人医師・シーボルトが持ち帰り、フランス語版は日本の「技術輸出第1号」とされ、欧州の養蚕業に貢献した。 伝記漫画本は生涯の歩みを紹介。養蚕の価値を確信した守国が、当時は行き方さえも判然としない東日本各地を歩いて、大勢の人々の協力で技術を習得。古里で養蚕振興に奮闘し、技術書完成に挑む姿が生き生きと描かれている。 作者のコンタロウさんは養父市広谷の出身。県立八鹿高校を経て千葉大学工学部在学中の1975年、集英社の漫画雑誌「週刊少年ジャンプ」に応募したギャグ漫画「父帰る!」で第2回赤塚賞入選を果たした。 在学中からギャグ漫画「1・2のアッホ‼」を連載。「MAD★キャラバン」「プロレス鬼」など20タイトルあまりの作品がある。毎日小学生新聞「めっちゃおもしろサイエンス!」の作画も2022年3月まで13年、約650回担当した。 今回の漫画制作を引き受ける直前の23年には偶然、テレビ番組や花見と共に見学した養父市の「上垣守国養蚕記念館」で守国を知る機会が続いた。実家で仕事をする機会も多く、制作の打診を受け「散歩の時、あいさつをしてくれる子どもたちに守国の漫画を届けたくなった」と話す。 作画では、当時の作業を詳しく示す資料がなく、記念館に何度も出向いて何枚もスケッチを描いた。コンタロウさんは「主人公は思い詰めるというより楽天的な感じもあるキャラクター。ただ、江戸時代に18歳の少年が往復で2000キロもの旅に出て、思いを遂げるのは大変なこと。一人旅の冒険談でもある。自分がやりたいと考えたことを、一生懸命やっていく姿が伝わればと思う」と語る。 B6判118ページ。青少年育成に取り組むB&G財団の補助事業で市教育委員会が3000冊を発行(非売品)。市内の小中学生のほか、図書館にも配る。市のホームページでも近く公開する。市内5カ所で原画約30枚の巡回展示も企画。25日までは関宮地域局分館、27日以降は市立やぶ市民交流広場など4カ所で順次、8月25日まで展示される。問い合わせは市教委歴史文化財課(079・661・9042)。