「おまえのところ、いつ閉める?」衝撃の会話を聞いた商店街 20店余を巡り歩ける活気を生みだしたキーパーソン
イベント企画、ポスターのデザイン、空き家の改修、シェアオフィス運営…。辰野町の一般社団法人「○(まる)と編集社」の事業は多岐にわたる。代表理事の赤羽孝太さん(42)は、どれも必要に迫られて取り組み始め、全てがつながっている―と説明。「いろいろやっていて何屋さんか分からないと言われるけれど、僕も分からない」と苦笑いする。 【写真】古い物にこそときめく 廃棄物がアートに
同町北大出出身。父親が大工で、子どもの頃から現場を訪れて建築に興味を持った。高校卒業後、建築家を目指して県外の大学に進学。大学院修了後は東京都内の工務店で大工として働きながら1級建築士免許を取得し、設計事務所にも勤めた。
2013年、辰野町内の親戚から「町移住定住促進協議会」が立ち上がると電話があった。空き家の活用に関わることなら協力できると思い、帰省を繰り返しながら協議会に参加。そこで気付いたのが、「地元に圧倒的に実動部隊がいない」こと。本格的に関わろうと16年にUターンし、町集落支援員に就任。空き家と空き店舗を活用したまちづくり、街一帯を再生して価値を高める「エリアリノベーション」に取り組んだ。
18年に設立した○と編集社は、空き家を活用した不動産事業や地域づくり、移住者の増加を目指す町からの受託事業を展開してきた。22年には自転車観光や宿泊、地元で起業する人材の育成を手がける合同会社トビチカンパニーを設立。「まちづくりに関わる人が増えると取り組む事業も増え、それらが円になって緩くつながる形を取っている」と説明する。
「おまえのところ、いつ閉める?」。帰郷して下辰野商店街4丁目の会合に顔を出した際に聞いた商店主同士の会話が衝撃的だった。空き店舗だらけで「シャッター商店街」となっていたが、行きたいと思える店が点在すれば商店街を巡ってもらえる―と思えた。
「歩いて巡って楽しい」という商店街の価値を具現化するため、飛び地のように点在する店をつないで「トビチ商店街」と名付けた。○と編集社も仲介に動き、現在は県内外から進出した20余の事業者が空き店舗などを活用。雑貨店や飲食店、コーヒースタンドなどを営業している。商店街内で店同士のつながりも生まれ、活気を生み出している。