『呪術廻戦』乙骨憂太の「怪我はない?」に歓喜 最終回で考える「渋谷事変」構成の巧みさ
2023年7月より放送された『呪術廻戦』「懐玉・玉折」「渋谷事変」がついに最終回を迎えた。「渋谷事変」に限って言えば、アニメ本編では18話にわたって描かれていただけに、最終回を迎えるのは少し悲しい気持ちもあったが、本編後には続編となる「死滅回游」の制作発表のアナウンスもされ、大げさではあるが生きる希望が見えたというファンも多かったのではないだろうか。 【写真】獄門疆を手に睨む偽夏油(「渋谷事変」最終回場面カット) 最終回の振り返りに入る前に、まずはここまでの長編シリーズを安定したクオリティで届けてくれた制作陣には感謝したい。「渋谷事変」では五条悟と偽夏油の邂逅、虎杖悠仁と脹相や真人らとのバトルシーン、七海建人の死など、ここでは列挙しきれないほどあまりにも出来事が多すぎるため、きっとアニメから入った視聴者は怒涛の情報量に戸惑うこともあっただろう。だが、アニメでは重要な局面は丁寧に描きつつ、かなりテンポよく進めていたため、ストレスなくかつ状況がわかりやすく把握することができた。 あと、触れておきたいのはオープニングテーマのKing Gnu「SPECIALZ」、エンディングテーマの羊文学「more than words」という主題歌たちだ。「SPECIALZ」では渋谷事変における五条救出のための総力戦の盛り上がりを表現し、「more than words」では作中のキーでもある1年ズの関係性が描かれている。物語を通して効果的に主題歌が使われることも多く、印象深い2曲となった。 さて、ここからが本題。最終局面で偽夏油の前に姿を現したのが特級術師・九十九由基。偽夏油と九十九の考え方の決定的な違いは「呪力の最適化」と「呪力からの脱却」。かつて全人類から呪力を無くすことを大義としていた九十九はフィジカルギフテッドである伏黒甚爾の死を契機に、一度は全人類の呪力のコントロールへと切り替えたが、再び呪力を無くすために行動している。対して、偽夏油は全人類を呪術師にすることを望んでいる。この対照的な考え方は大きな軋轢を生む。 偽夏油は呪霊操術によって取り込んだ真人の「無為転変」で、事前に呪いを与えてマーキングしていた人間の脳を呪術師の形へと整え封印を解いた。偽夏油が語る「自分の呪力にあてられて寝たきりになった者」とは、作中で描かれていたように伏黒恵の義理の姉である伏黒津美紀のこと。彼女は原因不明の呪いで寝たきりになったと説明されていたが、ここで偽夏油による仕業であったことが明かされた。 「これがこれからの世界だよ」「再び呪術全盛 平安の世が……!」という言葉を残して姿を消した偽夏油。ここから「渋谷事変」の後の日本が描かれるが、東京23区全域が全滅、総理代理全員が安否不明……東京はすでに呪霊が溢れ返る人外魔境と化していた。原作では文字列のみだった東京の状況も、アニメでは日常における呪霊の大きな影響を描いており、より鮮明に恐怖感を演出していた。 そんな中、呪霊に襲われそうになっていたひとりの少女を救ったのが、海外から帰国した乙骨憂太。「渋谷事変」ではどこまで描かれるのか未知だっただけに、乙骨の登場にSNSでは大いに湧いた。緒方恵美の「怪我はない?」という優しい声を久しぶりに聞くことができて素直に嬉しい。だが、そんな穏やかなシーンから一転して、呪術総監部から乙骨に対し虎杖の死刑執行役としての任務が与えられる。乙骨の「虎杖悠仁は僕が殺します」の表情は冷酷そのものだが、到底上層部の話を素直に受け入れるとは思えない。 また、最終話では禪院直哉の登場シーンや虎杖と脹相の会話は丸々カットされ、虎杖が橋の上で両手を上に掲げて手を叩いて、呪霊をおびき寄せるシーンで終わった。七海の死や釘崎野薔薇の負傷、因縁の相手である真人との戦闘など、虎杖にとってこの「渋谷事変」とは自身のスタンスを改めて考えさせられた契機となった。自分が何を指針に生きていかなければいけないのか、その考え方が確立された大切なチャプターである。 ひとつのチャプターの区切りとしては上手な終わり方だったと言えよう。「死滅回游」が放送されることが発表されているように、直哉の登場は後の楽しみだ。この先、「渋谷事変」以上に重たい話が続いていくだけに、それに耐えられるのかというところも心配だが、まずはここまでのクオリティで最後まで描ききってくれた全ての方に感謝を告げたい。
川崎龍也