“黒い”スーパーアース「LHS 3844 b」が同期回転している観測的証拠を発見
■LHS 3844 bが黒く熱いのは宇宙風化のせい?
一方で、今回の研究結果からは新たな疑問も生じました。2019年の研究では、LHS 3844 bはかなり黒っぽい色をしており、恐らくは黒っぽい溶岩である玄武岩が表面を覆っていると考えられていました。しかし、恒星の熱を黒い玄武岩が吸収しても、LHS 3844 bの高い表面温度を説明することはできません。最も簡単な説明は、潮汐力によって内部が加熱されることです。 ところが、今回の研究ではLHS 3844 bの公転軌道の離心率(※2)が真円にかなり近い0.001未満であることも併せて示されました。公転軌道がこれほど真円に近いと、潮汐力による熱はほとんど生じません。この矛盾を回避する最も簡単な説明は、LHS 3844 b以外にも惑星があって、軌道を乱すことで潮汐力が発生している、というものです。これと似た状況は、木星のガリレオ衛星の1つである「イオ」で生じています。イオの公転軌道も真円に近く、かつ同期回転をしていますが、他のガリレオ衛星の重力によって軌道が乱され、潮汐力による加熱が生じています。 とはいえ、もっと可能性が高いシナリオもあります。LHS 3844 bには大気が無いため、太陽風や宇宙線と言った荷電粒子で生じる「宇宙風化」が強く進行します。すると、太陽系の水星や月のように岩石が黒っぽくなるため、熱をより吸収しやすくなります。LHS 3844 bが熱い理由を宇宙風化に求めるのは、実際には存在しないかもしれない未発見の惑星を仮定するよりも妥当なシナリオと言えるでしょう。Lyu氏らも、宇宙風化が有力な候補であり、潮汐力による加熱の可能性はあまり高くないと考えています。 LHS 3844 bで進行した宇宙風化で、どのような物質が生じているのかはまだ分かりません。黒色の主な原因は水星の場合は黒鉛、月の場合は金属鉄ですが、現状の観測データではどちらの物質もあり得るため、特定ができません。候補を絞り込むにはLHS 3844 bの追加観測が必要となります。その結果として表面の物質のデータだけでなく公転軌道のより詳細なデータが得られれば、今のところ表面温度を説明できる候補として残っている未発見の惑星説を排除することもできるでしょう。 ※2…公転軌道が真円からどの程度離れているのかを示す値が軌道離心率です。0は真円、0以上1未満は楕円形で、1未満なら軌道は閉じています。1に等しいと放物線、1より大きければ双曲線となって軌道が閉じなくなります。 Source Xintong Lyu, et al. “Super-Earth LHS3844b is Tidally Locked”.(The Astrophysical Journal) Laura Kreidberg, et al. “Absence of a thick atmosphere on the terrestrial exoplanet LHS 3844b”.(Nature)
彩恵りり