ホンダ「N-VAN」オーナーが新型バッテリEVの「N-VAN e:」を見て、触って、乗ってみた
2024年10月10日に発売が開始された、ホンダの軽商用EV「N-VAN e:」の公道試乗会が神奈川県の横浜にて開催された。 【画像】1人分の趣味の道具を積むならちょうどいい空間を持つN-VAN。ハマる人には「変わりに乗るクルマはない」と思うほどシックリくる存在だ 新型車の試乗会はモータージャーナリストが試乗を行なうのが一般的だが、今回は取材記者である筆者が担当させてもらった。理由は筆者がガソリン車のN-VANオーナーであることだ。 N-VANは2018年8月に発売が開始され、発売前からオーダーを入れていた筆者は9月早々の納車となり、以降、約2年間N-VAN連載記事をやらせてもらっていた。そして連載終了後もN-VANに乗り続けている。 さて、そんな筆者が行ってきたN-VAN e:の公道試乗会。電動化されたN-VANがどんなものか気になっていたので、装備の違いからガソリン車との乗り味の違いもお伝えしていこうと思う。 ■ まずは使い勝手をチェックしてみた 試乗車は個人ユーザー向けグレードの「e:FUN」が割り当てられた。N-VAN e:はN-VANをベースにしているので全体的な印象に変わりはないが、フロントグリルに給電リッドが設けられたり、フロントナンバープレートの位置が変更されたりとN-VANとは顔つきが変わり、ひと目で「N-VAN e:」と分かる。筆者のN-VANと並べて撮影してみたが、特徴的な丸型LEDヘッドランプはそのままでもハッキリとした違いがある。 そのほか変わったところと言えばタイヤ径が12インチから13インチになり、足下がしっかりした印象になったことがある。 N-VANはホンダの軽商用車アクティ(生産終了)や、その他の軽商用車からの乗り換えも意識していたので、軽商用車の標準的なタイヤサイズである12インチを採用していた。 N-VAN e:も開発当初は12インチタイヤの採用を検討していたそうだが、EV化により車重が約200kg増えたことから、ブレーキ性能を引き上げる必要性が出た。そこでフロントのディスクブレーキローターを大径化したが、そのためにホイールのインチアップが必要になったのだ。また、車重が増えたことはタイヤの耐荷重にも影響があるので、13インチ化と同時に空気圧の設定値が前後とも引き上げられている。 つぎに室内を見てみる。N-VANとボディ形状は変わっていないのでドアの操作感に変わりはない。シートの高さや位置も変わっていないので乗り込みは相変わらずスムーズに行なえたが、シートに座ると違いを感じた。N-VANと比べて座ったときに身体が沈み込む感覚が少し増しているように感じた。 この理由をホンダの解説員に聞いてみたところ、シート形状やクッション材に変更はないが、表生地は変えていて、生地の張り感の違いからN-VANのシートとの座り心地に違いが出ているとのことだった。 これは座り心地がいいとかそういったレベルの話ではないので、N-VANとN-VAN e:のシートに優劣を付けるものではない。ただ、色あいとしては試乗したe:FUNのシートのほうが好みである。 メーターやインパネやトリムのデザインも大きく変わった。e:FUNとe:L4のメーターは7インチTFT液晶になり、マルチインフォメーションディスプレイが組み合わされている。 ただ、表示自体はいたってシンプルなものなので、乗用車の液晶ディスプレイメーターのような華やかさはない。でも、N-VAN e:を選ぶ人であればここは問題ないと思う。それにインテリア自体に加飾パーツが一切使われていないので、メーターもシンプルであることは視覚的にもバランスがいいものである。 インパネのデザインは小物を置く場所が増えているのが好印象で、明るい色になったのもいい。とくにe:FUNは個人用、趣味車として乗る人が多いと思うので、明るい色使いにすることで無骨さ(素っ気なさとも言う)を減らすのはアリだと思う。 N-VANオーナーなのでついつい色々見てしまう。室内のチェックはもう少しお付き合いいただきたい。 N-VAN e:は乗員の保護を強化することから、軽商用バンでは唯一、サイドカーテンエアバッグとサイドエアバッグが装備された。N-VANに限らず軽自動車はボディサイズの都合上、着座位置とドアの間隔が狭く、もしものときにドア側に身体を強くぶつけそうな気がしていたので、これらの装備が付いたことは非常にいいことだ。また、サイドエアバッグ、サイドカーテンエアバッグと合わせて衝突後ブレーキシステムも装備されている。 エアバッグの追加は大歓迎だが、N-VANならではの事情でちょっと困る面もあった。N-VANは運転席以外のシートを床に収納できるのが大きな特徴であり、N-VAN e:でもその機能は継承されているのだが、助手席にサイドエアバッグが組み込まれたことでダイブダウン(床にしまう形態)にした際、N-VANにはなかった「出っ張り」ができた。そのためダイブダウンさせた助手席スペースを「平らに使いたい」という場合、エアバッグの出っ張りを避けて使う必要が生まれた。 また、仕事で重量のある道具を積んだり、オートバイや自転車のトランスポーターとして使う場合などでは、シートバックや床の保護の意味でフロアボードやマットを敷いたりするが、助手席部分のボードはN-VAN用だと形状が合わないので加工するか専用品が出るまで待つという感じだ。 ■ 横浜の街中を走ってみた いよいよ試乗である。メインスイッチをオンにしてもガソリン車のような「音」がないが、走行ができる状態であればメーターには「READY」の文字が表示されるのでそこを見れば走れることが分かる。 そしてシフトボタンのD(ドライブ)を押して、サイドブレーキを解除しようとスイッチを探すと、スイッチがない。 「あれ?」と思っていると、サイドブレーキはN-VANと変わらず足踏み式だった。EVなのでサイドブレーキも電気式と思い込んでいたので、これはびっくりしたところ。ただ、電気式サイドブレーキではないということは、ACCも全車速対応ではなくN-VANと同じく30km/h以上で作動するタイプと言うことなので、N-VANオーナー的には「差を付けられてない」とホッとする部分でもあった。 EVと言うことでアクセルペダルを踏んでないときのクリープはどんなものかと思っていたが、これはCVTのN-VAN同様にあり、進み具合はN-VAN e:のほうが若干強く感じるものだ。 そして駐車場から公道に出た。試乗は交通量もそこそこあり、信号も多いコースで設定されていた。そのためストップ&ゴーや低速からの加速を繰り返すことを何度も試してN-VANとの違いを探ったのだが、そこで感じたのがアクセルペダルの操作に対しての「加速感の向上と、それに伴って運転が楽になったこと」だった。 N-VAN e:はモーター駆動らしくアクセルペダルを踏むと素早く太いトルクが出る。そのためクルマは即座に「スッと」動いてくれるし、その進み方もなかなかに力強く、他のクルマや道路状況にあう速度まですぐに達する。この感覚はN-VANにはないもので、例えると排気量の大きいクルマの加速フィーリングのようでなかなか快適であるが、実はこの快適ということが大きなポイントだ。 N-VAN e:は配送の仕事で使われることを意識したクルマ。走って止まっての繰り返しは地味に疲れるものだ。それを1日中である。しかも配送ではクルマを降りて徒歩や小走りでの移動もある。それだけに余計にアクセルを踏まないで済む(右足に余計な仕事をさせない)ことは思っている以上に疲れ軽減となる。 それに速度が低い域とは言え、加速時は無意識にそれなりの気を張るものだが、加速のいいN-VAN e:はその時間も短く、さらに言うと加速が早めに終われば気持ちに余裕もできるので、ホンの少しであってもリラックスして走れる時間も生まれる。EVは加速がいいことは乗る前から分かっていたことだが、N-VANという速さを求めていないクルマにおいて、そのことがどんな意味があるか、と考えていたらこんなふうに感じたのだった。 そんなことを試乗後にホンダの技術者に伝えたところ「快適、疲れない」という読みは大正解だった。N-VAN e:の開発目標には「運転しやすく、疲れない、安心なクルマ」という大きな項目があって、その意味は静かであることや乗り心地がいいというだけでなく、リニアな加速による身体的、精神的な負担軽減という要素も含まれていたのだ。 こうした特性は配送の仕事で乗る人のことを考えたものではあるが、毎日の通勤で乗る際も同じだ。仕事で疲れた身体で乗る帰り道であれば同様の効果はおおいに助かるものだし、レジャーで乗るときも長距離移動や観光地での渋滞などの疲れを軽減してくれるものだと思う。 すごく狭い範囲のことをツラツラと書いているが、ここは筆者的に「大きい」と思ったところだった。 さて、つぎに印象的だったのが、乗り心地がよくなっていること。N-VANも軽商用バンとしては乗り心地はいいほうだと思っていたが、とはいえ跳ねたりしないまでも路面の細かい凹凸が伝わるようなフィーリングだった。 N-VAN e:は路面のうねりや凹凸を通過する際の乗り味がずいぶんスムーズで、イメージとしてはN-BOXに近いものと感じた。また、あえてマンホールなど路面の起伏がある場所を選んで通ってみたが突き上げ感も軽減されていた。ここはN-VANオーナーとして「うらやましい」と感じた部分。 今回の試乗コースは市街地だったので、「ワインディングでのコーナリング」みたいなことを試す場所はなかった。でも、交差点をクイックに曲がってみたときに違いを感じられた。それはなにかと言うと、ロールした姿勢での安定感がN-VANよりいいこと。イン側タイヤの接地感が増している感じだ。 そういった印象についてホンダの技術者に質問してみたところ、バッテリがフロア下に積まれたことによる低重心化と、増えた車重に合わせたサスペンションセッティング変更の効果と説明があった。 具体的に言うと、N-VANに対してスプリングのレートアップとそれに合わせたショックアブソーバーの減衰力の変更が行なわれているのだが、それがカーブでの安定感向上にどう関わるかと言うと、レートが上がりスプリングの伸びる力が強くなれば荷重が載らないイン側タイヤであっても路面に押しつける力が増すため。その効果に加えて、フロア下に約200kgのバッテリが載ったことで、カーブ走行時の安定感がN-VANより向上している。 ちなみにこの特性は高速道路でのレーンチェンジでも効果を発揮するはずなので、また試乗する機会があれば高速道路も走ってみたい。 と言ったところが今回の試乗で筆者が感じたこと。すべて筆者が所有するN-VANとの比較なので、N-VANに乗ったことがない方は、また違う印象を持つかも知れない。でも大きく外れることはないと思うので、これから試乗をするならばチェックポイントの一部として参考にしてもらえればと思う。 ■ 全グレードと純正アクセサリー、EVカーナビをチェック 最後に、試乗会の会場に展示されていた他グレードおよび純正アクセサリー装着車、6月にナビタイムと連携して作ったという「EVカーナビ」を紹介する。
Car Watch,深田昌之,Photo:堤晋一