商店街に響く、29歳「包丁研ぎ師」の研ぎ音 見た目にもこだわって仕上げる「信頼と実績」
2022年の夏、神奈川県内のスーパーマーケット「スズキヤ」葉山店で初めてワゴンを出した堺優一郎さん……心配した両親が見に来たそうです。 「父は、『好きな道を進め』と言ってくれましたが、母は『安定した仕事についてほしい』と心配していましたね」 そんな心配をよそに、堺さんが午前10時にお店を開くと、次々に、お客さんがやってきました。堺さんは、お客さんに「何に使う包丁ですか?」と、まず聞きます。魚専用、お肉専用、野菜専用と、包丁を使い分けている方もいるので、それによって刃の角度を少し変えて研いでいます。 現在、堺さんは、スーパー「スズキヤ」の6店舗と、月末2回の衣笠商店街、そのほか、スポーツジムなど、移動しながら包丁を研いでいます。堺さんは「包丁研ぎ師」を職業として認知してもらうため、きちんとした服装で、立ったまま包丁を研いでいます。
肝心の切れ味はもちろん、包丁全体の見た目にもこだわって仕上げます。こんなことがありました! 受け取りに来たお客さんが、「お兄さん、これ私の包丁じゃないわよ。誰かのと間違えてんじゃないの?」……新品のように磨き上げたので、自分の包丁じゃないと勘違いしたお客さんがいたそうです。 研ぎ料は、家庭で使う普通の包丁だと、990円。錆びている包丁、刃が欠けている包丁、素材が硬い包丁、職人さんが使う特殊な包丁になると、ちょっと料金がかかります。料金を提示し、研いだ包丁をお返しするときにお金をいただく後払いです。 一度研いだお客さんの包丁は、何も聞かずに預かります。 「お客さんの顔は覚えていなくても、包丁を見ると、自分が研いだものだと分かるんですよ。だから、どう研げばいいか、聞きません」 やりがいは、お客さんからの、こんな言葉…… 「見違えるほど切れ味が良くなって、料理が美味しくなったわ!」
預かった包丁を黙々と研ぐ堺優一郎さん! 昭和の懐かしい音が、賑やかな商店街に響きます。