小林化工、日医工……名だたる製薬企業が、人体に影響を及ぼす「品質不正」に関わったのはなぜか
三菱自動車やスズキの燃費不正、エンロン、ワールドコム、東芝の不正会計、ジェネリック医薬品の生産拡大によって生じた製薬業界の品質不正、冤罪の被害を受けた大川原化工機事件に象徴される軍事転用不正etc. 【図表で解説】組織不正が起きるカラクリ… 組織不正は、なぜあとを絶たないのか――。 組織不正がひとたび発覚すれば、企業の株価や評判は下がり、時には多くの罰金を払う必要が生じる。最悪の場合、倒産の可能性さえある。にもかかわらず、それでも組織不正に手を染めてしまうのはなぜか。 組織不祥事や組織不正の研究を続けている立命館大学経営学部准教授・中原翔氏が、組織をめぐる「正しさ」に着目した一冊、『組織不正はいつも正しい』から一部を抜粋してお届けする。
二〇二一年以降、ジェネリック医薬品を中心に起きた品質不正
製薬業界の品質不正は、とりわけ二〇二一年以降に製薬企業で発生した不正製造を指しています。これらの製薬企業の多くは、ジェネリック医薬品(後発医薬品)を製造していたことから、この不正製造によって病院や薬局でジェネリック医薬品の供給不足が起きるなど、大きな問題となりました。 これらの品質不正事例をまとめてみると、名だたる製薬企業が名を連ねていることが分かります。これは国が定める承認書とは異なる方法で医薬品を製造していたことからも明らかなように、人体に直接影響のある医薬品の安全・安心が大きく脅かされる事態にまで発展したのです。 それでは、これらの品質不正事例は、一体どのような不正であったのでしょうか。少しここで確認してみたいと思います。 発端となったのは、二〇二〇年一二月から二〇二一年二月にかけて問題となった小林化工の不正製造です(*1)。小林化工では、抗真菌剤に誤って睡眠剤が混入する不正製造が行われていました。抗真菌剤とは、真菌が増えるのを抑える働きがある薬のことを指しています。この抗真菌剤の中に、普通は混入しえない睡眠剤が混入していたため、それらを実際に服用した患者などからは、めまいや意識障害などの副作用が複数報告され、大きな問題となったのです。 小林化工が社内調査を行ったところ、製造工程において実際に睡眠剤が混入してしまう可能性がある事態が発見されました。その後、小林化工は製品の自主回収を進めたものの、二四〇名以上の方から健康被害が報告され、小林化工は工場の業務停止と出荷停止を余儀なくされたのです。 他にも、ジェネリック大手の日医工では、品質試験において規格に適合しなかった錠剤などを粉砕して、再び加工することによって医薬品を製造・出荷していたことが分かりました。それらは国が承認した製造方法ではないことから不正製造として明るみになりました。 本来、規格に適合しなかった錠剤などは廃棄しなければなりません。しかし、日医工では廃棄すると損失が出てしまうことから、それらの錠剤を一旦砕いて、もう一度加工することによって規格に適合するようにしていたのです。もちろん、同じ錠剤を砕いているわけですから、品質そのものが改善することはなく、規格に適合するまでそれらを続けていたなどの不正製造が判明したのです。 このようにジェネリック医薬品の製造においては、製薬企業による不正製造が相次いで発覚しました。そのために、製薬企業は業務停止や出荷停止に追い込まれ、ジェネリック医薬品自体の供給量が不足してしまったのです。このような事例に共通しているのは、先にも述べたように、製薬企業がジェネリック医薬品の製造を推し進めていたということでした。 ではなぜ、ジェネリック医薬品の製造を推し進めると、不正製造が増えるのでしょうか。このことをより詳しく考えるために、まずはわが国においてジェネリック医薬品の製造が進められた背景にさかのぼって考えていくことにしましょう。