吉川明日論の推薦図書:『TSMC』世界を動かすヒミツ
中国本土出身のMorris Changが米国にわたり、TI(Texas Instruments社)での経験を基に台湾で創業した弱小企業TSMCが、当時としては斬新なビジネスモデルであったファウンドリ会社としてどうやって生まれ、Intel、Samsung、UMC、GlobalFoundries(GF)、SMICなどの競合他社との熾烈な競争をどうやって勝ち残って、世界最大の企業に成長したかが詳細に語られている。特に、創業者のMorris Changは、業界のレジェンドと言われながら、昔から報道の前にはめったに姿を現さないのでその人と考え方には多くの人が関心を寄せるが、この本ではその部分が多くの逸話とともにかなり明らかになっている。TSMCにおける意思決定のプロセスが、研究開発、設備投資、人事、価格戦略、マーケティング、から世界戦略に至るまでの多くの分野別に語られていて、今後も発展し続けるであろうTSMCの将来像も描いている。またTSMCをTSMCたらしめている独特の企業文化については再三多くが語られており、他のジャーナリストでは描き切れないTSMCの本質部分が垣間見えるのも大変に興味深い。 先ごろ台湾で開催されたCOMPUTEX 2024は史上最多の参加者を迎え盛大なイベントになった。今や、その一挙手一投足が注目される革ジャンCEOことJensen Huang率いるNVIDIAをはじめ、AMD、Qualcomm、Intelといったそうそうたるメンバーが集結し、半導体技術の最先端についてアピールしたが、それらの企業の製造の多くを一手に引き受けるのが台湾のTSMCである。 台湾に降り立ってまず感じるのは、ピーナッツオイルを使った台湾料理の炒め物と、道路にあふれかえるバイクからの排気ガスが合わさったあの独特の匂いであるが、何といっても全身に感じるのは街全体から発せられる巨大なエネルギーだ。この本を読んでTSMCとは台湾そのものなのだという印象を強くした。 ■ 吉川明日論 よしかわあすろん 1956年生まれ。いくつかの仕事を経た後、1986年AMD(Advanced Micro Devices)日本支社入社。マーケティング、営業の仕事を経験。AMDでの経験は24年。その後も半導体業界で勤務したが、2016年に還暦を機に引退を決意し、一線から退いた。
吉川明日論