12月短観、先行き懸念浮き彫り 深刻化する人手不足 トランプ氏復権に警戒感〔深層探訪〕
日銀が13日発表した12月の全国企業短期経済観測調査(短観)で、景況感を表す業況判断指数(DI)は大企業と中小企業の製造業、非製造業とも底堅さを示した。もっとも、先行きはいずれも悪化し、企業の懸念が浮き彫りとなった。企業心理に影を落とすのは深刻化する人手不足だ。人件費上昇による経営への圧迫に危機感は強い。来年1月のトランプ米政権発足による米中経済の不透明感増大や海外需要不振も警戒されている。 ◇値上げ「無理」 雇用人員判断DIは、大企業の全産業でもマイナス28と人手不足感は強い。飲食グループ、サンマルクホールディングスの藤川祐樹社長は「人員がそろわず売り上げの機会損失が発生している」と指摘。運転手の時間外労働規制が強化された「2024年問題」に直面するバス業界からは「労働時間が減る中、給与を上げる必要があり、苦しんでいる会社は多い」(ウィラーエクスプレスの平山幸司社長)と悲鳴が上がる。 横浜市のパン製造販売業エッセンの角田憲治社長は、賃金の大幅な引き上げに加え、原材料費やガソリン代も上昇していると説明。一方で消費者は買い控え傾向を強めており、コスト増を反映した既存商品の値上げは「無理だ」と語気を強めた。新商品への切り替えで「お客さんの納得を得ながら新しい価格帯に挑戦し、何とかぎりぎりで経営している」と訴えた。 ◇製造業、海外に不安 大企業製造業の先行きの業況判断DIは足元から1ポイント悪化の13。非鉄金属や機械などで海外需要の伸び悩みが懸念されているのが一因だ。中国をはじめ各国への追加関税を打ち出すトランプ氏の復権で、世界経済の不透明感が増していることも影響したとみられる。 米国の高関税政策は円安・ドル高の誘因となり得る。鳥井信吾・大阪商工会議所会頭(サントリーホールディングス副会長)は「(再び)円安が到来すれば中堅、中小事業者に非常に大きな打撃となる」と警戒。三菱重工業の泉沢清次社長は米政権交代による主力の防衛事業への影響について「新政権がどういう方針を打ち立て、具体的な政策がどう動くか分からないので、注視しながら進める」と話した。 中国の経済減速も、引き続き不安材料。大王製紙の品川舟平常務は、中国での子ども用おむつ事業について「景気低迷による市場縮小の加速などで厳しい状況にある」と語った。 今回の短観は、日銀が経済・物価動向を「オントラック(想定通り)」と判断し、金融政策の正常化を後押しする材料になったとの見方もある。ただ、大企業を中心に好調だった企業収益に陰りが出てくれば、日銀の利上げ路線にブレーキがかかる可能性がある。