男性の体は世間から大切にされないから、セルフケアが苦手なのかもしれない
僕たち男性の問題について、女性に何かを求めることはできない
――この記事を読んでいる男性読者に、伝えたいことはありますか? 田中さん:繰り返しになりますが、男性は「性別が自分の人生に影響を与えている」という視点を持つことが、とにかく大事だと思います。「定年まで働いて当たり前だ」と思えることはもちろん、「自分の心身の不調に気づけない」ことも世間から身体を大切にされていなかったり、“働ける”がゆえに鈍感さや麻痺を身に着けてしまっているせいかもしれません。 一度その視点を持って、ご自身の心や身体、考え方と向き合ってみてほしいですね。 福田さん:僕も男性のみなさんには、「自分の行動基準や価値観は絶対なのか」ということをご自身に問い直してみてほしいな、と思います。今の感覚は本当に自分から生まれたものなのか、というところを見直してみてほしい。「周りの影響で勝手に身についてしまった価値観」は必ずありますから。 「セルフケア」については、本当にアドレナリンを出し続けてないと満足できないのか。褒め合ったり助け合ったりすることでは充実感を得られないのか。ぜひ考えてみてほしいです。 ――最後に、女性の読者へ伝えたいことはありますか? 「男性のつらさも知りたい」「理解したい」と思っている方もきっと多いと思います。 田中さん:……女性へのメッセージは何も準備していないです。女性は既に様々なことを社会から要望され、たくさんの矛盾を被り、多くの方がつらい思いをされている。「男を立てなきゃいけない」なんて謎の要求にさらされている女性に、下駄を履かされている僕みたいなところから、「男性のつらさ」についてのメッセージなんて、とてもじゃないけど送れないです。 もしもご興味があるのなら、世の中には男性学の本がたくさんあるので読んでみてください。……これが精一杯ですね。 福田さん:僕も全く同じ理由で女性に「〇〇してください」「〇〇しましょう」なんてメッセージは言えません。「世間の男性に対して“話が通じない”と思うことがあるとしたら、そこには根本的な行動原理や世界の見え方の違いが、原因としてあるんだと思います」という事実をお伝えするくらいしかできないですね。 ――前編・後編にわたり、男性のジェンダー観や生きづらさについてお話してくださりありがとうございました。そんなおふたりが最後に「女性へメッセージは送れない」と言ったこともまた、現代男性の生きづらさのひとつを象徴しているのかも…と感じました。 社会学者 田中俊之 1975年生まれ。専門分野は男性学。大妻女子大学社会学専攻准教授。日本の戦後社会のジェンダーについて研究している。『男子が10代のうちに考えておきたいこと』(岩波書店)、『男がつらいよ』(KADOKAWA)、『男が働かない、いいじゃないか!』(講談社)等、男性学やジェンダーについての著書多数。 編集者・ライター 福田フクスケ 1983年生まれ。雑誌「GINZA」にてコラム「◯◯◯◯になりたいの」、Web「FRaU」(講談社)・「Pen」(CCCメディアハウス)などでジェンダーやカルチャーについての記事を連載中。田中俊之・山田ルイ53世『中年男ルネッサンス』(イースト新書)など書籍の編集協力も。その他雑誌やWEB、書籍などでも幅広く活躍中。 イラスト/キムラカオル 取材・文/東美希 企画・構成/木村美紀(yoi)