【ラグビー】「抜擢」の醍醐味を紐解く。「中竹竜二×野澤武史」の本音トーク
■抜擢されて活躍する人材とは
中竹 すごく印象的だったのは、最初に(ヘッドコーチとして)U20代表を見たときに、松田力也(19・23年W杯日本代表)が高校2年生でいた。それでいろんな条件をクリアして遠征に連れていったら、彼は人と仲良くする力があるし、先輩をいじれるメンタリティも持ってるから、本当にすごく馴染んだ。一方で(抜擢したいけれど)メンタリティ的に厳しい選手もいて、彼は遅咲きかなと思っていたらその通りだったな。 野澤 なるほど。めちゃくちゃ面白いですね。オフレコで詳しく教えてください(笑)。 中竹 大半は大丈夫なんだけど、繊細な選手もいるんだよね。 野澤 僕自身は抜擢されて勘違いして失敗しましたけど、失敗したのも笑いにできるというか、『これはこれで儲けたな』みたいな図太いところがある。その一方で、『抜擢されて注目されたのに結果が伴わずイヤになっちゃってスポーツに戻れなくなった』というような場合も考えられるわけで、やはり会社で言えばマネジメント側の人間が責任をもって判断しなければいけないと改めて感じます。
■もし2人が抜擢された大学生選手の監督だったら?
――もしもお二人が今、早稲田大学の監督だったとしたら、日本代表に抜擢された矢崎選手にどんな声を掛けますか? 中竹 絶対に最初に伝えたいのは、「結局ラグビーはチームスポーツなので、監督が変われば戦略も変わる。それに対応できる代表選手になってほしい」ということですね。 エディーさんの「超速ラグビー」しかできない選手は、監督が変われば無用になってしまうので、違う監督の戦略にも柔軟に対応できる選手になってほしい。それが本当の良い選手だから、そのつもりで、チームに戻ってきたらチームのラグビーをしてほしい、ということはちゃんと伝えたいです。 野澤 まさにそこですね。 中竹 「ジャパンではみんなこれで動いてくれたのに、なんでここでは動かないんだ?」と勘違いする選手になってほしくないですよね。 野澤 僕もありました。染まって帰ってきて、ジャパンのTシャツを練習で着てジャパン用語を使ってみる、みたいな(笑)。今思い返すと恥ずかしい(笑)。でも「対応できる選手に」というメッセージは受け入れやすい言葉だと思います。本当の一流はどんな指導者の下でも重宝されるんです。これは現役時代の経験則です。 中竹 とはいえ、せっかく日本代表に選んでくれているから、代表軸で考えてほしいですね。早稲田を勝たせることも大事ですが、この人材を育てる責任を考えたほうが結果的に早稲田が強くなると思う。育て方としては、「ジャパンと共に育てます」というイメージですね。 野澤 中竹さんがそう仰ったので、僕は違う観点で言うと、もし彼(矢崎)が慶應にいたら慶應古来の練習を徹底的に提供する(笑)。徹底して泥臭いことを反復する機会を自チームが提供してもいい。強度の高い試合が続いて頭脳も経験値も蓄積されて帰ってくるでしょうから、繰り返す中でしか得られない練習機会を作って、頭脳とのバランスを作ってあげてもいいのかなと思います。卒業した後、同期との昔話にも参加できますし(笑)。 僕が代表に参加したことでその後『失敗したな』と思ったことは、21歳で代表の環境を経験して成長したと思う一方で、その成長を『良い環境』に委ねてしまったこと。その結果、『神戸製鋼に行かないと成長できない』というマインドになってしまった後悔があります。それはいま振り返ると得ではなかったなと思います。 結局最後は自分が自分のことを成長させ続けていかなきゃいけない。そこに回帰できるような機会を作ってあげるのも一つの手かなと感じています。