NATO、「ウクライナ支援へ15兆円基金」新浮上の揺れる裏側 「もしトラ」を懸念する欧州とアメリカの関係
またNATOは、ウクライナへの武器供与を調整するアメリカ主導のウクライナ防衛連絡グループ(UDCG=NATO加盟国を含む56カ国)をNATOに移管することも検討していて、7月のワシントンで開かれるNATO首脳会議での最終決定を目指している。 ■課題となっているUDCGの強化 ウクライナ紛争初期段階で立ち上げたUDCGは、ロシア軍の侵攻を阻止するうえで重要とされたウクライナへの数百億ドルの装備、武器、その他の援助を迅速化したとされている。
だが、武器供与の遅延が目立ち、ウクライナ側は日々、多くのウクライナ兵が命を失っていることに悲鳴を上げている。それに西側同盟国は国内の政治的状況変化から供給の安定性を確保できていない。そのため、今回の協議ではUDCGの耐久性強化が課題の1つとなっている。 トランプ氏のホワイトハウス復帰を欧州が懸念する中、UDCGのNATOへの移管は、当面のウクライナ戦争に対する西側の支持を固める重要な動きとなると専門家は見ている。
現在の状況では、アメリカの国内政治が影響して追加支援の確約が取れないだけでなく、ハンガリーなど、ロシア寄りの国はウクライナ支援に後ろ向きで、加盟各国の国内政治に振り回されている。 その意味でも、UDCGのNATO内格上げは重要な意味を持つと防衛専門家たちは見ている。 UDCGは欧州大西洋圏外の目的を同じくする他の約20カ国も含まれる。ドイツのラムシュタイン空軍基地で月に1度、バーチャルまたは対面で非公開会議を開催し、ウクライナに最新鋭の戦車からF-16戦闘機まであらゆる装備を整備するうえで中心的な役割を果たしてきた。
ウクライナは、ロシアの前線の奥深くにある目標を攻撃するため、数カ月間ミサイルの追加を要求してきた。さらにNATO軍の飛行機、ヘリコプター、無人航空機が黒海上空で再び発見され、クリミア半島攻撃の準備と見られ、前線から1300キロも離れたロシア南東部タタールスタン共和国の工業地域で4月2日、ウクライナのドローンによる攻撃もあった。 ■大きな岐路に差し掛かったウクライナ支援 アメリカ国防総省は3月、以前の契約で節約したコストを活用して、切望されていた防空装備を含む新たな3億ドルの援助パッケージをまとめたが、上院が可決したイスラエル、台湾を含めた950億ドル(約14兆2000億円)の追加支援パッケージが下院で可決されない以上、追加援助を送ることはできないとしている。
ウクライナのNATO加盟が実現すれば、NATOの対ロシア軍事行動は一変するが、ドイツとアメリカはウクライナの民主主義と安全保障の改革なしにNATOへの加盟はありえないとしている。 つまり、ウクライナ支援は大きな岐路に差し掛かっており、特に欧州全体が戦争に巻き込まれるリスクが本格化する中、トランプ新政権に左右されない新たな防衛の枠組みを構築することが急がれている。一方で、アメリカのニューヨークタイムズは、NATOがUDCG乗っ取りに動いていると否定的に報じており、7月にUDCGがNATOの完全傘下に入るかは不透明だ。
安部 雅延 :国際ジャーナリスト(フランス在住)