夫の休職・激しい浪費・暴力に耐えかねて、心のバランスを崩した妻。心を病んだ夫婦の葛藤
もしパートナーが心のバランスを崩してしまったら……。 そんな時、あなたはどうやってパートナーを支えますか? 【マンガを読む】NHKで紹介された彩原ゆずさんの『夫婦で心を病みました』(画像136枚) 夫が双極性障害を患った経験のある漫画家の彩原ゆずさん。彼女は子どもふたりを育てながら「私が夫を支えなきゃ」という責任感とプレッシャーに追い詰められていきました。さらに夫の病気から来る浪費や風俗通い、暴力に悩まされ、彩原さんも次第に心を蝕まれていきます。 そんな経験を、コミックエッセイ『夫婦で心を病みました 優しい夫が双極性障害を発症したあの日から』に詳しく綴っています。彩原さんが心のバランスを崩していった経緯を見ていきましょう。 ■『夫婦で心を病みました』あらすじ 彩原さんはふたりの子どもを出産し、仕事を辞めてフリーのイラストレーターをしていました。彩原さんが仕事と幼い子どもふたりの育児に追われている一方、夫のユウタさんは仕事の多忙さからため息が増え、食事を残したり、夜も眠れず起きている様子がありました。 目に見えて痩せていたユウタさんにギョッとした彩原さんは、半ば無理やりユウタさんを病院に行かせます。その時は「うつ病」の診断をされ、夫は3ヶ月休職することになりました。 そんなユウタさんを過剰に気遣っていくうちに、彩原さん自身もストレスで身体に異変が起こり始めたといいます。寝不足や疲れのせいかガンジダにかかり股のかゆみが出て、肌荒れもひどくなっていったそうです。 休職期間があけてユウタさんは仕事に復帰したものの、すぐに飲み会に呼ばれるなど忙しくなっていき、今度は浪費が激しくなる、物に当たるようになる、やけに饒舌になって妻を責めるようになるなどの症状が出てきました。 この頃には彩原さんも、イライラするあまり自分をたたいたり、外耳炎になるまで耳かきしたりと、自傷行為をするようになっていきます。 そんなある日、ユウタさんの風俗通いが発覚。ユウタさんは謝罪したものの、彩原さんの気持ちは晴れません。一度は関係を修復したものの、ある日激しい口論の最中にユウタさんは彩原さんに暴力を振るいました。それをきっかけに、彩原さんの感情はさらに不安定になり、乱高下を繰り返すようになります。 心のバランスを崩した彩原さんは、ある日、ふらりとベランダに出て下を覗き込んでいました。子どもに「ママ!落っこちちゃう!あぶないよぉ!」としがみつかれ、彩原さんは我に返ります。「このままでは取り返しのつかないことになる」と感じた彩原さんは、保健所の相談窓口に電話して、助けを求めたのでした……。 保健所で面談した精神科医からの指摘で、夫のユウタさんの病気は「うつ病」ではなく、躁状態とうつ状態を繰り返す「双極性障害」だったことが発覚。そして夫は2回目の休職に入ることになるのでした……。 夫婦の壮絶な日々を赤裸々に綴った彩原さんに、お話を伺いました。 ■著者・彩原ゆずさんインタビュー ――ユウタさんの心の病気が悪化するにつれて、次第に彩原さん自身の精神状態も悪くなっていきましたね。当時の彩原さんの気持ちを教えて下さい。 彩原ゆずさん:あの頃は常に気持ちが沈んでいて、赤信号なのにふらっと渡ってしまおうとしたり、かなり追い詰められた状態になっていました。ベランダから下を覗いてこのまま落ちてしまおうかと思った時、息子がしがみついてきて、それが本当にかわいそうで…。 ――そんな中でも、相談窓口へ電話をかけて助けを求めるという判断ができたのはなぜでしょうか。 彩原ゆずさん:ベランダでの出来事がきっかけで、このままでは取り返しのつかない事態になってしまうと思い、相談所を探しました。スマホで「死にたい」という言葉を検索すると心の相談ダイヤルなどが出てくるのが目に入ったんですね。検索で近くの保健所が引っかかり相談無料なこともあって電話しました。 ――「双極性障害」の可能性を指摘されたユウタさん。新たな病名を聞いた時のお気持ちや、この時、夫婦の間でどんな会話を交わしたのかを教えてください。 彩原ゆずさん:夫が変わったようになってしまったのは病気のせいだったんだとホッとした気持ちがありました。優しかった過去の夫が完全にいなくなってしまったわけではないと思えたんです。 この時の夫は私の意見を聞き入れられない状態でしたが、医師の口から病名を言ってもらえたことで、自分の病気を理解するきっかけになりました。「調子の波が大きかったし合う薬ももらえることになって良かったね」なんてことを二人で話したと思います。 ――夫婦ふたりとも心のバランスを崩してしまった頃、どのようなことが最も大変でしたか? 彩原ゆずさん:子どもたちが小さかったこともあり、どんな精神状態の時でも育児や幼稚園行事などをこなさなければいけないのが大変でした。家の中に篭っているより外でお友達と遊ばせた方が少しでも子どもたちに良い思い出を作れると思い、いろいろなイベントに参加しまくったことも。それにより疲れて私がイライラしてしまった時もあったので、無理しなくてよかったのになぁと思うけど、ただ今は当時頑張った自分を労ってあげたいです。 ――では、読者へのメッセージをお願いします。 彩原ゆずさん:夫がうつ病と診断され、人が変わったようになった時、私は金銭的にも精神的にも「自分さえ我慢すればいい」と思い込み、どんどん気持ちが病んでいきました。そんな経験から、家族が心の病を抱えた時に一人で抱えこまないでほしいと伝えたくてこの作品を描きました。 そしてのちに夫は双極性障害だとわかるのですが、私たち夫婦の場合は病気を知ることによって道が開けていきました。ですので、自身や家族の病気を知ること、医師に普段の状態をしっかり話すことを大切にしていただきたいとも思っています。 あまりにも苦しいと自分のために何かしようという考えも出てこないかもしれないけれど、誰かに頼ること、助けを呼ぶこと、専門的な場所に相談することを選んでほしいと心から思います。 ※本記事は2023年2月掲載の取材記事を再構成し、編集したものです。 取材=宇都宮 薫/構成・文=レタスユキ