認知症治療の「最前線」が凄すぎる…iPS細胞がアルツハイマー病に効く「驚愕の」理由
しかし再生医療には重大な欠点が
認知症の中では、アルツハイマー病が占める割合が7割近くと最も高いんですが、アルツハイマー病の再生医療は大変なんです。この病気は大脳全体が萎縮していきますから、それを補うために、もし外から脳の神経細胞を大量に移植してしまうと、これまでの記憶を失ってしまう可能性があります。 新しくつくられた回路が、もともとあった回路を侵食してしまって、自分が誰だかわからないような状態になりかねません。 谷川 別の人格になってしまう恐れもあるということですか。 山中 ええ。だからアルツハイマー病の場合は、創薬の研究になります。サイラでは、井上治久教授らのグループが家族性のアルツハイマー病について研究をしています。家族性アルツハイマー病は遺伝子の変異が原因で起こるので、アプローチしやすいんですね。 iPS細胞から家族性アルツハイマー病になった神経の細胞をつくって、その細胞に多数の候補薬を振りかけると効果がある薬が確認されました。その薬は、パーキンソン病などの治療薬として用いられている既存薬でした。 2020年から始めた医師主導治験の結果、治験に参加された患者さんの人数に限りがあるものの、新たな副作用はなく、症状の進行を抑える傾向もみられました。 規制当局とも協議しながら早期の実用化を目指す方針です。iPS細胞を使った創薬研究だけでなく、さまざまな研究方法によりこれからも効果のある薬が出てくる可能性はあると思います。 『「ミニ肝臓」「ミニ脳」を創造! …「認知症の予防にも⁉」iPS細胞に秘められた「莫大すぎる」可能性』へ続く
山中 伸弥(京都大学iPS細胞研究所所長)/谷川 浩司(棋士)