多くの人が意外と知らない、「地方移住」の問題点
この国の人口はどこまで減っていくのだろうか。今年1年間の出生数が70万人割れになるかもしれず、大きな話題となっている。 【写真】日本人は「絶滅」するのか…2030年に百貨店や銀行が消える「未来」 そんな衝撃的な現実を前にしてもなお、多くの人が「人口減少日本で何が起こるのか」を本当の意味では理解していない。 ベストセラー『未来の年表 業界大変化』は、製造・金融・自動車・物流・医療などの各業界で起きることを可視化し、人口減少を克服するための方策を明確に示した1冊だ。 ※本記事は河合雅司『未来の年表 業界大変化』から抜粋・編集したものです。
「多極集中」がもたらす未来
政府や地方自治体は地方移住のキャンペーンを展開して「多極分散」に邁進している。 現時点においては「正しい政策」ということになるのだろうが、人口を拡散させたことで民間事業者の撤退を招き、あるいは企業の経営体力を弱らせて、将来的に「住み続けられる場所」を減らしたのでは本末転倒である。民間事業者の撤退は雇用の消失でもある。 東京一極集中の是正は喫緊の課題であり移住政策が悪いと言っているのではない。東京圏は食料生産の大半を地方にゆだねており、このまま過密状態が続けば都市機能が破綻しかねない。首都直下型地震も予想されている。それ以前の問題として、あらゆる機能を一極に集中させている現状は国防上の観点からしても脆い。だからと言って移住先がどこでもいいわけではないということだ。 このまま思い思いの地に人々が移住して「多極分散」が進んだならば、「トリプルでの国内マーケットの縮小」は現実味を帯びてくる。 では、「多極集中」を進めていったら展望はどう開けるのか。 「多極集中」というのは聞き慣れない言葉だが、具体的には全国各地に「極」となる都市をたくさん作ろうという考え方である。現行の地方自治体のエリアとは関係なく周辺地域の人口を集約して商圏を築き、「極」となる都市の中心街として歩行者中心のコミュニティーと賑わいをつくるイメージである。ドイツなどヨーロッパ諸国には、こうしたイメージとかなり近い形の都市がすでに存在している。 人口規模で言うと周辺自治体も含め10万人程度が想定される。国交省の資料によれば、人口10万人であれば大半の業種が存続可能となるためだ。 この10万人商圏を生活圏とし、中核的な企業や行政機関を中心として雇用を維持しながら、海外マーケットと直接結びつくことで経済的に自立させるのである。 国内マーケットが縮小する中で、企業や行政機関は経営モデルを変更せざるを得ないが、「戦略的に縮む」ことによる成長を達成するためには個々の組織の変化だけでなく、社会の在り方も根本から変えることが求められる。 つづく「日本人はこのまま絶滅するのか…2030年に地方から百貨店や銀行が消える「衝撃の未来」」では、「ポツンと5軒家はやめるべき」「ショッピングモールの閉店ラッシュ」などこれから日本を襲う大変化を掘り下げて解説する。
河合 雅司(作家・ジャーナリスト)