マーク・ウォールバーグ×ハル・ベリー『ザ・ユニオン』から考える、映画界の現状や課題
マーク・ウォールバーグ、ハル・ベリー主演の、Netflix配信スパイアクション映画、『ザ・ユニオン』……親しみやすいコメディタッチの内容だが、それだけに、とくに観客に大きな衝撃を与えることのない、ストレートな娯楽作だといえるだろう。しかし、だからこそこの一作は、さまざまな意味で現代の世相を表すものとなった。 【写真】『ザ・ユニオン』場面カット(多数あり) じつは現在、本作『ザ・ユニオン』に類する、観客の“ある感情”を刺激するアメリカ映画が目立ってきているのである。この状況に対する見解を含め、本作から感じ取ることができる映画界のいまの状況や課題を、ここでは考えていきたい。 本作でウォールバーグが演じるのは、ニュージャージーに住み、建設作業員として働く中年男性のマイクだ。地元でごく平凡な日々を送っている彼だったが、高校時代に恋人だったロクサーヌ(ハル・ベリー)が会いにきたことで、人生が大きく変わることとなる。なんと彼女は、いまでは諜報機関の敏腕スパイになっていて、マイクを組織の一員としてスカウトしに来たのだった。 日常の生活からかけ離れた環境で、スパイの訓練を積み、ミッションをこなすための技術を次第に習得していくマイク。初のミッションへと赴き、ロクサーヌと行動をともにすることで、かつて恋人同士だった二人の距離も接近していく。だが思わぬ事態によって、二人は最大の脅威と向き合うことになるのだった……。 イタリア、イギリス、クロアチア、スロベニアなどヨーロッパ各地で撮影がおこなわれているように、規模としては『007』並の活躍が描かれている本作。異なるのは、主人公が敏腕スパイではなく、あくまで平凡な中年男性であることが特徴だという部分だ。 団結、融和を意味する「The Union(ザ・ユニオン)」というタイトルの本作はもともと、改題される前は「Our Man from Jersey(われらがニュージャージーの男)」というものだった。これはイギリスで映画化もされた、作家グレアム・グリーンのスパイ小説のタイトル『Our Man in Havana(ハバナの男)』をもじったものだと思われる。 ニュージャージー州や、その都市ジャージーシティは、国内最大の都市ニューヨークから少し離れた都市圏であることから、日本では「アメリカの埼玉」と呼ばれることもある。そんなニュージャージーからほとんど出たことがなく、地元の仲間たちとつるんで騒ぐ生活を送っている中年男性が、本作の主人公なのだ。 高校時代同様、公民館の外でいまだにブレイクダンスをしているというセリフには思わず笑ってしまうが、つまりマイクは、中年になっても高校の同級生たちを中心とした人間関係のなかで生きているタイプの人物なのである。だからこそ彼は、人生のなかで重要な時代だった高校時代に恋人だった、ロクサーヌとの再会に至上の喜びを感じるのだ。 アメリカでは、マイクのように高校時代に学生たちから人気があり、“イケていた”男子よりも、地味で勉強に精を出していた学生の方が、むしろ広い世界でキャリアアップしていくといった現象が取り沙汰されることが少なくない。本作は、まさにそんな人物の、“現実への復讐戦”となっている。