「不自由の中の自由」模索する難病のダンサー 参加のグループ展
多様な言語のあり方に目を向けたグループ展「翻訳できない わたしの言葉」が、7月7日まで、東京都江東区三好4丁目の東京都現代美術館で開かれている。展示アーティストの1人で、ダンスアーティストの新井英夫さん(57)は、2022年夏、難病の筋萎縮性側索硬化症(ALS)と診断された。 【写真】自宅のリビングで電動車いすに座る新井英夫さん。壁には仕事で使うさまざまな楽器がかけられている=2024年5月15日午後、東京都北区、関田航撮影 移動は車いす。動かしづらくなってきた体で「不自由のなかの自由」を模索し、表現を続けている。 新井さんの展示室からは、様々な音が聞こえてくる。リンリン、ポチャポチャ、カサカサ。鈴のついた服を着てジャンプしたり、仰向けになって水が入った袋をおなかに載せ、ゆらゆらしたり、紙をくしゃくしゃにしてみたり。観覧者が体験できる仕掛けがちりばめられている。 「体奏家」を名乗る新井さん自身も展示の一部となって、観覧者とのコミュニケーションを試みる。使うのは五十音やアルファベットが書かれた透明な文字盤。文字盤をはさんで目線を合わせ、相手が伝えたい単語を読み取る方法で、しりとりをする。 「1人ひとり違う、からだの声を尊重すること。それが、分断や壁を越える一助になるかもしれない」。そんな思いを展示に込めた。 企画した学芸員の八巻香澄さんは、「一つの『正しい』言葉にまとめようとするときに、とりこぼされていく人たちに思いを寄せる展覧会にしたいと思った」と語る。脳出血で高次脳機能障害を負った友人の存在もあり、「言葉を話せなくても、1人の人間として認められる。そんな社会を作る裾野にしたい」と考え、新井さんに声をかけた。 それぞれの「わたしの言葉」をそのままの言葉として認め合うことが、相手を理解する一歩につながる、との思いを込めたという。展示では他にも、アイヌの言葉や、母語と第2言語、手話、外国語など、様々な「言葉」に焦点を当てている。 6月15日午後2時からは新井さんらの即興パフォーマンスとトークが予定されている。月曜休館。午前10時~午後6時。大人1400円、大学生・専門学生・65歳以上1千円、中高生600円、小学生以下無料。(三宅梨紗子)
朝日新聞社