オスカー・シュレンマーの名言「全ての始まりは陽気なものなので、…」【本と名言365】
これまでになかった手法で新しい価値観を提示してきた各界の偉人たちの名言を日替わりで紹介。バウハウスの教育者のひとりとして活躍した舞台芸術家、オスカー・シュレンマー。彫刻家やデザイナー、教員とさまざまな顔を持つシュレンマーが生み出した衣装や舞台装飾の数々は、はっと目を見張るほど前衛的でありながら、楽しく陽気だった。 【フォトギャラリーを見る】 全ての始まりは陽気なものなので、私も陽気に始めたい。 抽象絵画の先駆者、ワシリー・カンディンスキーや、建築と家具の両分野で活躍したデザイナー、マルセル・ブロイヤーなどそうそうたる人物が集うバウハウス。多くの人が想像するのは、シンプルで機能的なデザインや実験的な映像芸術、先駆的な芸術教育だろう。そんななか、オスカー・シュレンマーは舞台芸術の分野で独自の表現を追い求めた。 シュレンマーの舞台衣装を見ると、誰しもが「これを着て踊れるの?」と口にしてしまう。球体や立法体など幾何学形態をベースにしたもの、彫刻のごとくダイナミックな装飾や色彩を施したものと、シュレンマーが手がけた舞台衣装はどれも趣向に富んでいる。代表作として知られる『トリアディック・バレエ』はその真骨頂。「踊りのための衣装」ではなく、人の動きを制約することで生まれる「衣装のための踊り」を考案し、従来の舞台のあり方とは異なる新たな可能性を切り拓いた。 「舞台のテーマは、もちろんこのバウハウスの基本的な雰囲気にとても関係がある。……おもしろおかしいもの、ダダ的なもの、機械的なもの、映画などがアクチュアルなのだ。感情や情緒はどれも鼻で笑われる、まして真面目なものは。しかしながら私は、ある特定の方法でそれを試みようと思う。まず簡単な音楽の音とダンスの動きで始めよう。ドラマ的なものはゆっくり、後から、慎重に、できるかぎりそれ自身で発展するように。全ての始まりは陽気なものなので、私も陽気に始めたい」 内面的な感情表現ではなく、身体の動きや空間の設えなど視覚的な面白さから舞台芸術を紐解いていったシュレンマー。「美しさ」とひたむきに向き合い、そこから溢れ出る新しさや遊びを表現にする。バウハウス的理念を舞台芸術に昇華したシュレンマーの作品は、時代を超えてもなお、多くのアーティストやデザイナーたちに刺激を与え続けている。
オスカー・シュレンマー
1888年、ドイツ・シュトゥットガルト生まれ。舞台芸術家、彫刻家、デザイナー。1906年、シュトゥットガルト芸術アカデミーに入学。在籍中に最初のダンス作品を構想する。卒業後、第一次世界大戦に従軍し、1921年にバウハウスに所属。1922年9月、代表作『トリアディック・バレエ』の初演を果たす。その後、ナチスの台頭により職を解雇されるも、晩年まで各地で展示や公演を開催に励む。1943年、54歳で逝去。
photo_Yuki Sonoyama text_Kentaro Wada illustration_Yoshifumi ...