「陰陽師0」佐藤嗣麻子監督 デビューから30年「みんないなくなった」 第一線でエンタメ映画を撮り続ける唯一無二の女性監督に聞く
「エコエコアザラク」(1995)や「K-20 怪人二十面相・伝」(2008)、「アンフェア the answer」(2011)、「アンフェア the end」(2015)などを手掛け、4月19日に監督・脚本を務めた最新作「陰陽師0」の公開が控える佐藤嗣麻子監督は、長く男社会だった日本の映画業界において、約30年にわたって第一線を走り続けてきた稀有な存在だ。彼女ほどコンスタントにエンタメ大作を撮る女性監督は他にいない。「陰陽師0」を「私の最高傑作」と断言する佐藤監督に、これまでの歩みや最新作について聞いた。 【写真】妖しい色気を放つ山﨑賢人さんに釘づけだ! 佐藤監督は1964年、岩手県奥州市出身。ロンドン留学後、日本では1993年に映画監督デビューした。脚本家としても数々のメジャー作品を担当。夫は「ゴジラ-0.1」で第96回米アカデミー賞・視覚効果賞に輝いた山崎貴監督で、2人は同じ専門学校で学んだ仲間だという。
同時期デビューの女性監督はみんないなくなった
「1990年代、私と近い時期にデビューした女性の映画監督で今も続けているのは河瀨直美さん(「萌の朱雀」「殯の森」など)くらい。でも彼女はどちらかといえばアート系なので、いわゆる王道のエンタメ作品を撮っているのはもう私だけだと思います。いつの間にか、みんないなくなってしまいました」 そう語る佐藤監督の口調は常にやわらかく、穏やかだ。しかし若い頃は、圧倒的に男性が多い映画の現場で、戦わざるを得ない局面も経験してきたという。 「日本で初めて撮ったときは、スタッフも女性監督と仕事をするのが初めてで、特にカメラマンや照明部の反発がすごかったです。『お前の意見なんて聞けねえ』という感じ。でも幸か不幸か、私は留学先のイギリスでものすごくハッキリものを言う人になっていた。向こうでは『自分はこうしたい』ということをきちんと主張しないと通じませんから。その感覚のまま喋っていたら、日本ではスタッフと大喧嘩になってしまって…(笑)」 「今回、『陰陽師0』に出てくださった山﨑賢人さん、染谷将太さん、奈緒さんは、私から見ると“ニュージェネレーション”という感じがすごくありました。先ほども言ったように、かつての映画業界は照明部がわざと照明を落としたり、美術部が金槌を投げたり、暴力も日常茶飯事でしたから、役者さんもそういう人が少なくなかった気がします。今はもう完全に世代が変わりましたよね。特にこの3人は俳優として優秀なのはもちろん、人柄も素晴らしく、『これからの映画界を引っ張っていくのはこういう人たちなんだな』と頼もしく感じました」 自分の現場を「のほほんとしている」と形容する佐藤監督。「昔スタッフと喧嘩したという話をしましたが、私は当時から何も変わらず、気楽にやってきたつもりです。一方で、最近は映画業界全体の雰囲気がこっちに近くなってきたのか、昔より楽になったとも感じます。自分が年を取ったことで、立場的に楽になったからという側面もあるのかもしれませんが」