なぜSNSに忙殺される? 同調圧力と承認欲求強い大衆増えた日本の未来
3 大衆社会の行方
他人指向は「周りと仲良く」することを目指す心理傾向で、本来悪い話ではありません。それがお互いを型にはめ合う窮屈な社会を生み、タイムラインのチェックにあくせくするせわしない生き方を生んでしまっています。どうしてこうなってしまうのでしょう? 図4は2015年~2017年の授業内調査のデータ(サンプル数715人)を用いて他人指向に関連する項目を図示したものです。偏相関という方法でみかけの関連をなるべく除いてあります。これをみると、人間関係を難しいと思う人が不安を感じ、自分に自信がなく、そういう人が他人指向の傾向を持つことがわかります。不安や自信のなさを「周りと仲良く」することで埋め合わそうとしているようですね。 前に紹介した権威主義はタテの人間関係に依存して安心を得ようとする心理傾向でしたが、他人指向はヨコの人間関係に依存して不安を紛らわそうとする心理傾向と言えます。図4を見る限りでは権威主義は不安と直接には結び付いていません。今の若い人たちはタテというよりはヨコの人間関係を不安への盾としているのでしょう。 不安が他人指向の原動力だとすると、お互いを型にはめようとするのもうなずけます。周りに合わせない人は不安を感じさせます。それゆえ周りに合わせるように圧力をかけられてしまうのでしょう。またタイムラインをチェックしないと不安になるので、時間があるとスマホを覗き込んでしまいます。不安が強まると他人指向の弊害も深まると考えられます。 今後の日本社会では急速な人口減少が予想されていて、国立社会保障・人口問題研究所の中位推計では2053年には1億人を切るようです。商業化の進んだ社会では人口が減るとお客さんが減ってしまいます。多くの企業が存続の危機に直面するでしょう。こうした状況では更に不安が高まることが予想されますし、他人指向が現在よりも激しくなるかもしれません。中には海外市場に活路を見出そうとする企業も出てくると思われますが、他人指向傾向の強い従業員には海外進出は荷が重い可能性が考えられます。多くの企業は結局国内に留まることになるのではないでしょうか。 外に出て行く代わりに、外から移民を受け入れることになるかもしれません。しかし、それも不安を高める要因になり、この場合は権威主義的な反応が増すかもしれません。いずれにしても不安を軽減することができるかどうかが鍵になりそうです。権威者に従って安心したり、周りに合わせて不安を紛らわせたりするのではなく、不安そのものを減らす社会を築けるかどうか。これが大衆社会の行方を占う一つのポイントになるでしょう。 この連載では権威主義や他人指向といった大衆心理を手掛かりにして現代社会の問題をみてきました。今の社会を考える一つのヒントになれば幸いです。 【参考文献】 デービッド・リースマン.1950. (加藤秀俊訳. 1964.)『孤独な群衆』. みすず書房. 国立社会保障・人口問題研究所. 2017.『日本の将来推計人口 平成29年推計―平成28(2016)~77(2065)年』.厚生労働統計協会. ---------- 大浦宏邦(数理社会学)帝京大学文学部教授 1997年京都大学大学院人間・環境学研究科博士課程卒業、1997年帝京大学文学部社会学科専任講師 主な著書・論文:『社会科学者のための進化ゲーム理論』(2008年勁草書房)、『自分勝手はやめられるか』(2007年化学同人)、「秩序問題への進化ゲーム理論的アプローチ」(2003年理論と方法)