漁業でなく「海業(うみぎょう)」って何?水産庁が推し進める謎ワード、海業調整官などの役職も~発祥の地・神奈川県三崎の実態から考える~
日本の漁業の凋落が止まらない。今年農林水産省から発表された「漁業・養殖業生産統計」によると、2023年の漁業・養殖業生産量は372万トンと、過去最低記録を更新した。 【写真】「海業」発祥の地「三崎フィッシャリーナ ウォーフ うらり」 魚が獲れなければ、漁業者は儲からない。この9月末に発表された「漁業経営統計調査」によると、漁船漁業を営む個人経営体の漁労所得は257万円に過ぎない。儲からなければ、そんな仕事をしようという奇特な人は現れない。この8月に公表された「漁業センサス」によると、23年時点の漁業従事者も10万2190人と過去最低を記録した。 このように窮状に対する「切り札」として、漁業の6次産業化が近年国を挙げて試みられている。6次産業とは、農林漁業者(1次産業)が、農林漁業だけでなく、製造・加工(2次産業)やサービス業・小売業(3次産業)にも取り組むことで、生産物の価値をさらに高め、向上を目指す取り組みと定義することができる。 国レベルでも10年に「6次産業化・地産地消法」を制定。農水大臣が農林水産業の総合化(6次産業化)促進に関する基本方針を定めるとともに、この基本方針を即する形で農林水産業者が総合化に関する計画を作成して農水大臣の認定を受けると、種々の国からの支援などが得られることとなっている。
漁業における6次産業化の形
漁業のみに目を転じてみた場合、その業界内で6次産業化は「海業(うみぎょう)」という聞き慣れない言葉で語られるようになっている。このことばは1980年代半ばに当時神奈川県三浦市の市長が言い出したもので、地元の漁業を漁業だけでなく観光業などと一体的に盛り上げようとして用いられるようになったものだ。 三浦市には三崎という全国でも指折りの大規模な漁港が存在するが、三崎市場の取り扱い金額は89年をピークに長期低落傾向にある。そこで、海の持つ多様な価値や潜在能力を経済活動の対象とする産業群や業種の集まりの総称を「海業」と呼び、水産業だけでなく、観光業や商業などを結び付けて、人を呼び込んで地域を活性化しようという取り組みが行われてきた。 国もこうした取り組みに注目し、「海業」を大々的に全国展開しようとしている。22年3月に閣議決定された水産基本計画及び漁港漁場整備長期計画では「海業」を「海や漁村の地域資源の価値や魅力を活用する事業」と定義され、漁港漁場整備計画では漁村の活性化により都市漁村交流人口を、おおむね 200 万人増加させること、及び漁港における新たな海業等の取組をおおむね 500 件展開することが謳われた。