「競輪ではなくフリーダイビングで」逝った仲間 元競輪選手が語る"もう一つの夢"と悲劇
夢の重さ、そして仲間との絆
アスリートは競争心を持ち、負けず嫌いな人間たちです。しかし、時にそれが命を落とす原因となることもあります。田中さんは、アスリートが自身の限界を知り、退く勇気を持つ重要性を説きます。限界を知ることで、命を守り、競技を長く続けられるからです。田中さんはダイビングを例に挙げ、次のように語ります。 「自分の限界を知っておく、退く勇気を持つ。それがないとダイビングは続けられない。(中略)海面に出る前に気を失ったり、OKのサインを出せずしゃべることもできない。自分の限界を超えてしまっていることがある」(p.71) 競輪という競技にも、落車など常に危険がつきまといます。死と隣り合わせの選手たちにとって、共に時間を過ごす者は、敵味方関係なく仲間に変わりないと田中さんは書きます。まして、他の選手と協力してレースで隊列を組み、共に戦う仲間ならなおさらです。本書では、こうした競輪選手たちの間にある「絆」について、以下のように述べられています。 「命を落とすかもしれない運命までも共有する仲間との絆は本物なのか、人生最後のレースになっても悔いを残さない絆であったか、卑怯者のレッテルを残したままで人生を終われるのか、そんな最期は絶対に嫌だと言い切れる絆で結ばれている」(p.77)
田中さんは、「わけも分からないまま飛び込んだ競輪の世界」を振り返り、昭和の匂いを感じたと回想しています。愛すべき仲間たちにも、同じような匂いを感じたそうです。そこには「残しておきたい」と願う、かけがえのない思い出があったのでしょう。 本書は、レースからは見えない人間味あふれるエピソードを通じて、勝負に生きる競輪選手たちの涙あり笑いありの世界を感じることができます。競輪ファンだけでなく、夢を追うすべての人、そしてかけがえのない仲間との絆を大切にしたいすべての人に読んでほしい一冊です。 (netkeirin編集部・木村邦彦) 【参考文献】田中浩仁著『競輪、ときどき昭和』、けやき出版、2024年3月13日発行