重要論文G7最下位…九大 藤木幸夫氏が警告「日本からノーベル賞は出なくなる」の真意
重要論文数“G7最下位”…日本に何が足りないのか?
──研究者の好奇心に基づく純粋な基礎科学が軽視されがちな傾向は、今後の日本にどのような影響を及ぼすでしょうか。 藤木氏:すでに表れています。2022年のデータでは、日本の大学や企業の研究開発費は米国、中国に次いで3位ですが、論文数はこの20年で世界2位から5位に落ちました。研究機関別の結果も寂しいかぎりです。東京大学18位、京都大学44位、大阪大学74位、東北大学89位で、九州大学はランキングに入ってもいません。引用率トップ10%に入る重要論文数もG7の中で最下位、世界12位です。 日本の文化は歴史も含めて内容が濃く、海外からも高く評価されていますが、残念ながらこうした数値はどんどん落ちています。これを保つ努力をしなければなりません。 日本の各種科学研究システムは、どうも目的・応用性の高いものに資金をたくさん注ぎ込む傾向にあるように感じます。もちろん、根本的にお金が不足していることはあるかもしれませんが、だからといって一極集中すれば良い研究ができると考えるのは、少し違うのではないかと思います。 ──研究者としてこの問題に対処するには「自分の興味・関心に基づいて、夢を追求する」ということですね。 藤木氏:それが最も大事だと思います。「なぜ」という問いかけから、すべてが始まるのですから。ペルオキシソーム欠損症についても、なぜ人が亡くなってしまうのかという問いかけがありましたから、その後の研究につながったのです。オルガネラのある・なしで、そんなに重要なことが決まってしまう。その仕組みを解明したいと思ったのです。
今のままでは「日本からノーベル賞受賞者が出なくなる」
──現在の研究環境について、ご意見があればお聞かせください。 藤木氏:たとえば米国は各州にそれぞれ有名な大学があって、生物学ならA大学、経済ならB大学といった多様性があります。一方、日本は明治維新以降、東大、京大をトップとする仕組みがずっと続いてきました。 それはそれで仕方がないとしても、もっと多様性が必要ではないでしょうか。一時期、文部科学省が大学のすそ野を広げる取り組みをしていたと思いますが、今はそれも尻すぼみになっているようです。 むしろ現在は、地方の大学は教育に専念すべしといった雰囲気になっています。たとえば九州であれば、教育について複数の大学で連携するような方向性が打ち出されていますね。たしかに少子高齢化も問題ではありますが、興味・関心を大切にして人材を育成しないと、日本の基礎科学は持たないと思います。 やはり、基礎的な研究が重要なのです。これまでは、自分の興味・関心で研究できる文化・土壌がありましたから、大隅さんをはじめとするノーベル賞受賞者がずっと輩出されたのだと思いますが、現状のままだと、今後は厳しいのではないでしょうか。 ──最後に、若い研究者にメッセージをいただけますか。 藤木氏:私の持論は「努力なくして佳い結果は出ない」です。研究の世界はチャンスが平等であり、夢があります。そして、繰り返しですが、自分の興味・関心に基づいて研究してください。あとは、「一期一会」の出会いを大切にすること、粘り強さ、そして英語での発信力も必要です。そのためにも、異文化での研究生活が大切だと思います。 ──基礎科学の重要性が再認識されること、そして興味・関心に基づく研究を行う若い研究者が増える環境を整えることが、今の日本に重要だと認識できました。本日は、貴重なお話をありがとうございました。 本連載特設ページはこちら:https://www.ofsf.or.jp/SBC/2310.html
協力:公益財団法人 大隅基礎科学創成財団