「今も高齢者を戦前のお爺さん・お婆さん扱いするメディア。コピー機やFAX。彼らはむしろ技術の進歩を目の当たりにした世代」医師・和田秀樹×プログラマー・若宮正子が語る<超高齢社会の未来>
総務省統計局によれば、2022年時点で、日本の65歳以上の高齢者の人口割合は、総人口の約3割におよぶそうです。そんな超高齢化の時代に、「高齢者がいきいきと暮らすことで、ニッポンの経済も社会も、元気になります」と言うのは、精神科医の和田秀樹先生。今回は和田先生と世界最高齢プログラマーの若宮正子さんの対談のようすをお届けします。若宮さんは、「インターネットにしろ、デジタル機器にしろ、使い出したら止まらないという高齢者の方はたくさんいます」と言っていて――。 【写真】AppleのCEOティム・クックと抱き合う若宮さん * * * * * * * ◆「高齢者はデジタルが苦手」はもう古い? 和田 81歳でアプリを開発してしまう若宮さんのような方が現れ、みんなが驚いたわけですが、アプリを作るまでには至らなくても、世の中が「高齢者はデジタルが苦手だ」と決めつけるのはよくありません。 デジタル機器を使うこと自体は、高齢者にとって難しいことではないですよね? 若宮 ええ。むしろ、インターネットにしろ、デジタル機器にしろ、使い出したら止まらないという高齢者の方はたくさんいます。 「メロウ倶楽部」という高齢者向けの情報共有サイトをのぞいていただくとわかりますが、みなさん、ネット上でいきいきと交流なさっています。
◆いまの高齢者の多くは元会社員 和田 話が少し逸(そ)れるかもしれませんが、私は植木等さんの大ファンでして。 若宮 そうなんですね。私も好きです。 和田 その植木さんの代表作のひとつに、『ニッポン無責任時代』(1962年公開)という喜劇映画があります。 植木さん演じる、お調子者の会社員の役名が「平均(たいら・ひとし)」というんですけど、これは、平均的日本人という意味でしょう。彼は昭和一桁の生まれで、本人いわく「三流大学の出」。その大学を出てホワイトカラーになります。 彼らの世代は、55歳定年が当たり前でしたので、彼が実在したとしたら、昭和60年(1985年)前後に定年退職しています。ということは、平成の世になって「高齢者」と呼ばれていた人たちの多くは、植木等演じる「平均」同様、ホワイトカラーの会社員だったわけです。 若宮 私が昭和10年(1935年)の生まれですから、植木さんの世代が少し上ですね。 和田 昭和34年(1959年)の会社員率が約50%らしいんですが、そのあと年々上昇を続け、平成5年(1993年)になると、80%を超えます。こうした数字からみても、いまの高齢者のほとんどは、元会社員といっても過言ではないでしょう。当然、コピー機やファクス、ワープロやパソコン……という技術の進歩を目の当たりにしていますし、実際に使ってきた世代です。 若宮 私も職場で、その変化を体験してきました。 和田 そういう人たちがですね、高齢者になったからといって「パソコンは触ったことがありません」「スマホは使えません」と毛嫌いするはずはありません。もちろん、中には苦手な人もいるでしょうが、大半はそうじゃない。むしろ新しく導入される機器に慣れ親しんできた人たちです。 10代、20代のデジタルネイティブ世代――生まれたときからスマホやインターネットに囲まれている世代に比べれば、高齢者全体のデジタル機器の利用率は低くて当然だと思いますが……。 若宮 近年の調査(内閣府2020年度「情報通信機器の利活用に関する世論調査」)ですと、70歳以上のスマホやタブレットの利用率は、よく利用している人、ときどき利用している人を合わせて、だいたい4割です。みなさんの印象だと、もっと少ないと思っているかもしれませんね。