養殖困難な大型エビ、海なし県で成功 重ねた失敗「大切なのは対話」
「どうです。立派でしょう」。水槽から取り出されたエビはハサミを広げると50センチもある大物。すごい迫力だ。 【写真】6月のオープンをめざす「エビ釣りレストラン」の釣り堀部分。釣りをしながらカウンターで調理したエビを食べることもできる=2024年5月10日、山梨県甲斐市岩森、米沢信義撮影 東南アジア原産のオニテナガエビ。山梨県甲斐市の株式会社「陸作」が、市内の玉川温泉横の養殖場で温泉水を利用して育てている。その数10万匹以上。社長の今村秀樹さん(53)は「卵から半年で出荷できるほど成長が早く、何より味が良い。海なし県でも大量生産できるよう試行錯誤してきた」と話す。 「一番うまい食べ方は塩焼き」とのこと。水槽からすくった1匹に塩をまぶし、網の上であぶると、青みがかった体がみるみる真っ赤に変色した。 加熱しても、身は甘くてくせがない。そして、濃厚でクリーミーなミソのうまみが強烈。美味なのに知られていないのは、日本での養殖が困難なエビだから。今村さんは3年前に独自に養殖装置を開発し、特許を取った。 今村さんは甲府市出身。子どもの頃から生き物が大好きで、昆虫採集や釣りに熱中し、自宅で飼育した。高校卒業後は人材派遣業で成功を収めたが、10年ほど前から「自分の好きなことをやりたい」と、養殖業への進出を考え始めた。そこで見つけたのが、タイなどで人気があるオニテナガエビの釣り堀。「これだ、と直感して手探りで養殖を始めました」 ところが失敗続きだった。8年前、初めて卵からかえった幼生は2日で全滅。オニテナガエビは共食いが激しく、あっという間に数が減る。えさ、水温、水流など条件を変えながら、生存率を上げていった。子どもの時から培った観察力が役だったという。 「大切なのはエビとの対話です。『はらが減った』とか『水が汚い』とか。今では9割方エビの気持ちがわかるようになりました」 特許を取った養殖施設では、卵からの生存率が約8割にのぼり、「陸作信玄えび」の名で高級料亭やレストランに出荷している。価格は1キロ2万円超で、場合によっては伊勢エビより高いという。 そして6月、今村さんが「長年の夢だった」という施設がオープンする。オニテナガエビを釣って、調理もできる「エビ釣りレストラン」だ。 自然に囲まれた甲斐市岩森の土地を買い上げ、縦8メートル、横3メートルの釣り堀を整備した。隣にバーベキュースペースを設け、釣り上げたエビを塩焼きで味わえる。1時間2千円で2匹までキープできる。目玉となる「大物」も混ぜるつもりだ。 「8年間は長かったが、このエビを広めたいと、諦めなかったから結果につながった。のんびり釣りを楽しんで、唯一無二の味を体験してほしい」。プレオープンは6月1日、中旬以降正式に営業する予定だ。(米沢信義) ◇ 〈株式会社「陸作」〉 オニテナガエビの養殖を海なし県の山梨で行う意気込みも社名に込めて、2019年設立。エビの共食いとストレスを最小限に抑えるシステム開発で特許を取得。エビ釣りレストランの開設準備も進める。詳細は電話(055・268・2920)かホームページ(https://rikusaku.com/)で。
朝日新聞社