徹底的に「市民のため」 米プリツカー賞の山本理顕さんがこだわった東京・福生市庁舎
東京のJR福生駅西口から歩いて10分弱。飲食店や住宅が立ち並ぶこの地域に特徴的な建築がある。福生市庁舎だ。赤みがかった茶色のレンガタイルで覆われた格子状の壁が特徴で、洗練されつつ落ち着いた雰囲気が福生の街によく調和する。手掛けた山本理顕さん(79)が先月、建築界のノーベル賞といわれる米プリツカー賞を日本人で9人目に受賞したことで改めて注目されている。 昭和30年代に建設された旧庁舎は当時としては十分な規模を誇るものだったが、人口増に伴い業務量も増えるなどし、手狭になった。耐震補強が必要との指摘もあり、新庁舎の建設が計画され、平成20年に現在の庁舎が竣工した。 3月下旬に訪れると、山本さんの米プリツカー賞受賞の効果か、カメラを向けながら建物を観察する女性や、庁舎を訪れた後にその外観をスマホに収めてから立ち去る男性など、建物に意識を向ける人の姿が多く見られた。その魅力が再発見されているようだ。市契約管財課の担当者も「圧迫感のないデザインでありつつ、ツインタワーで特徴的な外観。市のランドマークになっている」とその意匠に舌を巻く。 ■壁のないデザイン 観察していると目につくのは、「角がないこと」だ。2棟ある建物はいずれも正方形状だが、角はすべて丸く面取りされている。地面とも曲線的に接続され、攻撃性がまるでない。2棟の間は緩やかな丘になっており、歩き回ったり、芝生に座り込むこともできる。丘へは階段を使って上がることができるが、段差は非常に小さく、端部にいたっては段差がなくなり、平面に吸収されてしまう。徹底的に障壁が取り除かれたデザインだ。 山本さんはこれまで、国内の小中学校や名古屋造形大、韓国・城南市の集合住宅、スイスのチューリヒ国際空港に付属する巨大複合施設など、用途や規模によらず、さまざまな建築を手掛けてきた。作風として共通するのは、建築を、外部と内部を隔てる単なる〝壁〟にしないこと。山本作品は景観になじみ、開放的で、人々が集えることに重きを置いているものが多い。 ■高いシンボル性