【相撲編集部が選ぶ名古屋場所６日目の一番】カド番貴景勝、必死の相撲も……。送り出されて苦しい４敗目
持ち前の集中力でこの苦境を打ち破っていくことができるか
若元春（送り出し）貴景勝 気迫と、そして執念は見せた。ただそれでも、この状況下で一番欲しい白星は、手にできなかった。 【相撲編集部が選ぶ名古屋場所６日目の一番】伯桜鵬が豪ノ山に初勝利し、全勝にストップ。髙安も敗れ、勝ちっ放しは錦木のみに 今場所カド番の大関貴景勝が、４敗目を喫した。 若元春との一番は、貴景勝だけでなく、両者の気迫がぶつかり合い、両力士が勝利への執念を見せ合う攻防のある相撲となったが、勝利の女神は貴景勝に非情だった。 立ち合い。貴景勝は首を痛めているだけに、頭を下げてはいかなかったが、それでもこの日は思い切り体ごとぶつけてはじくように立った。これはなかなか威力があり、貴景勝は若元春に廻しを与えることなく、まず先手を取って押し込んだ。 しかし悲しいかな、そのまま突き出したり、押し出したりというところには、今場所の貴景勝は至らない。土俵際、突き放せずにいるところで、若元春に得意の左差し、右上手を許してしまう。 それでも貴景勝は、とっさに左から掬い投げ、これで若元春の上手が切れた。貴景勝は続いて右へ回ってのイナシ。これで体が離れ、二人ともちょっとバランスを崩しかけたが、どちらも執念で踏みとどまった。互いに向き直ったところで貴景勝は頭を下げ、右から突いて出るが、少し前傾が足りなかったか、動きの中で若元春の右手が廻しに届いてしまった。 若元春にはこの上手が命綱。すかさず上手出し投げを打って後ろにつき、そのまま送り出した。 貴景勝はこれで６日目を終えた時点で２勝４敗。カド番脱出へは厳しい星勘定となった。 ただ、相手の若元春も、「立ち合いでしっかり大関の押しの強さを感じました。（大関は）あれだけ動けるのは、すごいですね。押しも強いし、スピードもあるし、キレもある。自分は残すので精いっぱい。最後に何とか上手に手が掛かりましたけど」と言っているとおり、敗れたとはいえ、大関の立ち合いの当たりの威力、体の動き、そして見せる執念は、場所が始まったころと比べると、だいぶ本来のものに近づいてきたという印象もある。 もちろん、星勘定の上では、カド番脱出に要求される、残り９日で６勝３敗というのは、今の体調では厳しいことは厳しいだろう。しかし大関にとって、本来に近い動きさえ取り戻せればまったく不可能な星というわけでもない。 もともと、日々の星勘定には拘泥せず、その日の相撲にだけ集中していく力には定評があるのがこの大関だ。今こそ、その勝負強さの見せどころ。持ち前の集中力でこの苦境を打ち破っていくことができるか。 大関をめぐる戦いと言えば、３連勝と好スタートを切っていた霧島が、この日は平戸海に敗れて３連敗となり、今場所後の大関復帰の条件である10勝到達が怪しくなってきた。こちらはむしろ星勘定をしだすといっぺんに小手先でさばきにいく消極的な相撲になる傾向もあるだけに、ちょっと心配だ。 この日でトップと二番手に２差がついた優勝争いはちょっと無風で、こちらの目も次の焦点である貴景勝と霧島の大関をめぐる戦いに移りつつあるが、結果として残れることになるにせよ、そうでないにせよ、戻れることになるにせよ、そうでないにせよ、その決着がつくまでは、この日貴景勝が見せてくれたような執念と気迫のこもった相撲を、両力士には見せてもらいたい。 文＝藤本泰祐
相撲編集部
