業界初取材。シュトーレン日本チャンピオンが作るシュトーレンは何が違うのか?「ブーランジェリー スドウ」(松陰神社前)日本最高の美味しさの秘密
奇跡の口どけを生み出す発酵
そして、2つ目のポイントは、須藤さんが最も大事にしているという「口どけに」につながる発酵だ。基本はイースト菌を使い、ふくらまして作る観点ではパン作りと全く同じと話す須藤さん。 異なる点は、他のパンに比べて副材料が多いところ。例えば尖った香りのするお酒を入れたり、酵素を壊してしまうようなフルーツを使用したり……。そこに気を付けないと、膨らまなかったり、ボリュームが出なかったり、びちゃついてしまったりと、口どけや風味が悪いものになってしまうそうだ。 この発酵がなぜ大切か。それは生地が発酵する過程で生まれる“香り”が美味しさに大きく左右するから。生地の温度帯をこまめに管理し、しっかり発酵させ小麦の力を引き出し、水分量をコントロールし、バターをいい塩梅で吸わせ……一連の細かい仕事ぶりが口どけに大きく左右していく。 添加するイースト菌で、発酵力を引き出し美味しくするのがパン屋の仕事。「これこそ、パン屋のパンづくりの醍醐味です」そう話すのは奥様。 取材時はシュトーレン作りの作業を奥様が担当していた。厨房はややピリリと張り詰める現場の空気感にすぐ気づくことができた。
“少しの集中でさえ、切らさない”
筆者が過去にたくさんの取材をしてきた中でも、異なるその現場の雰囲気。シェフと奥様が、このシュトーレンにづくりにいかに集中して向き合うか、美味しいシュトーレンを作るために本気で向き合うか、その姿を肌で感じることができた。私が仕込み中に少しの質問をすると、シェフが「ミスしないように状態をしっかり見て」と奥様へ。生地の仕込みから一次発酵、二次発酵etc.そのすべての過程は全集中をもって作られていた。
素材選びから始まる“美味しい”ストーリー
「ブーランジェリー スドウ」のシュトーレンが美味しい理由は、丁寧な仕事ぶりだけではない。素材を“当たり前”のようにこだわり、厳選することから始まる。 例えば、一つあげるとしたらバターだ。数々のシュトーレン製造の現場を見てきた中でも、その香りとあまね色の澄ましバターは圧巻である。 シュトーレンを作る工程を知らない方は驚くかもしれないが、焼成後のシュトーレンをバターに漬ける作業が美味しさを担う大事な工程となっており、故にバター選びも大事なポイントに。 国産、外国産etc.と数多く存在するバター。「ブーランジェリー スドウ」がこだわって選んでいるのは一般的にあまり流通のない“冷凍していない”北海道の釧路の牧場で作られる特選バター。冷凍していないと何が違うのか? それは“香り”である。冷凍していない生の状態だと、香りと風味の豊かさは格別である。 バターは乳脂肪や食塩、タンパク質などいろいろなものが乳化し出来上がったもの。それが平温で溶かすことで、写真のように分離していく。下にたまった白い部分は、風味と美味しさの天敵でもある酸化が早く、使うのは上の澄ましバターだけ。厳選されたバターで作られたこの澄ましバターは、バター本来が持つ風味を凝縮させ、最大限贅沢にシュトーレンの美味しさへとリンクしていく。 「ブーランジェリー スドウ」のシュトーレンが時間が経っても風味も食感も損なわないのは丁寧な仕事と、それを支える食材選びが肝である。