こんなの、もう出てこない トヨタ・ランドクルーザー70とマツダ2 自動車評論家の渡辺敏史が推すのは日本市場ならではの、ディーゼル搭載実用車だ!
ランクル・ナナマルなんか、もう走るタイムマシンです!
2014年の再販に続き、再々販となったランクルの“70”と、マツダの入門モデル“2”。なんの関係もなさそうなこの2台もドライバーズ・カーだ、というのはモータージャーナリストの渡辺敏史だ。その理由をとくと語ってもらおう! 【写真24枚】1.5直4ディーゼルMTのマツダ2を改めて写真で見てみるとなんだか魅力的 ランクル・ナナマルはもう世界一カッコいい!! ◆もし1000kmの長距離を走るとしたら何を選ぶ? 「ドライバーズ・カー」の定義は人それぞれであり、当然ながら速くもなんともない選択だって全然あり得る。いや、むしろ飛ばさなくとも満たされるクルマこそ金の草鞋を履いてでも探したい、そんな方もいらっしゃるのではないだろうか。 毎日クルマに乗ることも、長い時間をクルマと共にすることも、まったく苦にならないどころか、むっちゃ嬉しいし俄然やる気が出る。思えば自分もそういうタイプだったわけだが、いざ東京から九州の実家に帰る機会が増えたこのところは、時間や予算的な兼ね合いもあって、お恥ずかしくも折につけ航空会社のタイムセールの画面に張り付いている。 1000kmの距離を自ら走るより乗せられて飛ぶ方が全然安いといういびつさはさておき、いざクルマで長距離移動をという話になると、我々なりの生活防衛として、頭に思い浮かぶのはディーゼルという選択肢ではないだろうか。 2011年の東日本大震災当時、日本の乗用車のほとんどはガソリン車両だった。それがゆえ、災害地周辺では極端なガソリン不足に陥り、スタンドに長蛇の列が出来たのは記憶に新しい。当時、医師を各地の治療現場に送る車両の運転手をボランティアでやっていた私は、薬問屋の軽自動車さえガソリンを得られず薬を病院に運べないという状況をみるにつけ、災害の多い日本の乗用車の、2割程度はディーゼルにしてリスクヘッジしておくべきだろうと実感させられた。 と、そこに相前後してディーゼルをフィーチャーした商品群を展開したのがマツダだ。タイミング的に当然狙っていたわけでもないだろうが、先駆のメルセデスと共に21世紀のディーゼルのニーズを牽引し、後にBMWやボルボなども巻き込みつつ、定常的なディーゼルの市場を形成した。多分、民間単位の運搬力や移動力は13年前のあの時よりも確実に上昇しているはずだ。それだけでもマツダの果たした役割は大きい。 と、そんなマツダの中で最も小さな1.5リッターのディーゼル・ユニットを搭載してきたのがマツダ2だった。過去形なのは、ちょうど9月にこのディーゼル・モデルの生産を終了したからだ。今後は在庫販売のみとなる。 ディーゼルといえば欧州が主力と思われる方もいるだろうが、ディーゼルゲートや排ガス規制の強化を受けて、彼の地の需要も大きく変わった。今やマツダ2のようなBセグメントにディーゼルを設定する銘柄は無に等しい。高価な後処理装置を山積みさせられてはコスト的にも合わないものとなってしまっているわけだ。なお欧州でのマツダ2にディーゼルの設定はなく、トヨタ・ヤリスのOEM版としてマツダ2ハイブリッドをエコ物件に位置づけている。もはや勘定的にディーゼルでも見合うのは、マツダの場合ならCX-5以上と、これが欧州の現実である。 折角上手にCO2を減らせる手段を自らの施策で売り物にならなくしているという、この間抜けな現実に翻弄されてしまったマツダの小排気量ディーゼルを、日本ではなんと6段MTでぶん回すこともできる……というのが、このマツダ2の醍醐味だ。1500回転前後にトルクの痩せが窺えるも、そこから向こうの5000回転付近まで感じられる望外の伸びの良さは、摺動部品の小ささに加えて低圧縮のスカイアクティブDならではのフィーリングといえるだろう。このディーゼルらしからぬ吹けと落ちの良さも手伝って、回転を合わせながらキビキビと振る舞うことができ、MTが宝の持ち腐れにならない。10年選手のシャシーはさすがに端々で古さは感じるものの、操作に対する応答性や一体感などは今でも充分ヤリス辺りに対峙できる。 毎日の些細な移動も走りで彩ってくれる上、20km/リッターオーバーは楽勝とHEVもびっくりのエコカー的一面も持ち合わせているのだから、これはもう見事に現代的なドライビング・プレジャーといえるだろう。 ◆世界のナナマル 対すれば、変わらぬ良さをいかに湛え続けるかに腐心しているのが「ナナマル」ことランドクルーザー70だ。変わらない理由、その第一義はもちろん悪路性能にある。単にアクティブな走破性だけを指す話ではない。もっともシンプルかつプリミティブなメカニズムを継続して採用し続ける、これによって修理の術や部品の在庫などが継承され、世界の極地で走り続けることを任とするナナマルたちの延命がはかられる。登場から40年、その歴史はランクルのアイコンともいえるヨンマルのそれを遥かに超えている。 誕生30周年の際には日本でも再販されたナナマルだが、その際はガソリンエンジン+5段MT+1ナンバーの組み合わせで、居住性や快適性の面では難があった。それでも歓喜したファンによって、当時の個体はプレ値を維持し続けている。 そして40周年の現行型は、ディーゼル+6段AT+3ナンバーと、フェイスリフト以上に中身の更新ぶりが際立っている。ランクル150や250系にも搭載される2.8リッターユニットは低回転域から過不足のないトルクを粘り強く発してくれるおかげで、悪路でのアクセルワークにも気遣うことがない。さすがに100km/h超の高速域ではインジェクターノイズも立ってくるが、同時にロードノイズや風切音も盛大になる。心地よく巡航できる速度域は自ずと100km/h程度に落ち着いてくる、その域では11km/リッターくらいの燃費が出ることもあって、130リッターの燃料タンクをフルに使えば九州や北海道も移動の範疇に入ってくるわけだ。 この日本離れしたスケール感とタフネスぶりを満喫するに、3ナンバー化に併せてバネやダンパーのセッティングを変更。乗り心地がすばらしく整ったのも多くの人には朗報だろう。高速巡航が苦にならないほど柔らかくなったサスは、副産物として悪路でのアシの動きにおいても柔軟性が高まっているという。 操舵や制動などで逐一感じる重機のようなフィードバックは相変わらずだが、これもまた、移動を特別なひと時に感じさせる大事なスパイスだ。絶壁のダッシュやドアトリムに囲まれたキャビンの中にいて、細いピラー越しに景色を眺めていると、走るタイムマシンを手に入れたような心持ちにさせられる。仮に悪路に乗り入れずとも、過去と今とを繋いでくれる私設特急に毎日乗れる、そんな時間的贅沢もまたひとつのドライビング・ファンではないだろうか。 文=渡辺敏史 写真=郡 大二郎 (ENGINE2024年12月号)
ENGINE編集部
【関連記事】
- 自動車評論家の国沢光宏が買ったアガリのクルマ! 内燃エンジンのスポーツカーと泥んこOKの軽自動車、これは最高の組み合わせです!
- 【詳細解説】320iセダンと420iクーペがドライバーズカーである理由を、自動車評論家の菰田潔が語る なぜBMWは運転が楽しいクルマの大定番なのか?
- 【前篇】28万km、14万km、11万km、過走行の初代カングー3台オーナー座談会 どうしてカングーはこんなに運転が楽しいのか?
- スポーツカーの本質、ライトウエイトスポーツ対決! 日本代表マツダ・ロードスター vs アルピーヌA110 エンジンHOT100ランキングの1位と2位が激突【前篇】
- 新生アルピーヌの第3弾、「A390_β」は5人乗りのA110と呼べるスタイリッシュなEVのSUVクーペ