NYT記者が分析する、AIが抱える最大のリスク 「まだ暴走列車ではない」AIの現在地と課題
その背景に中国の脅威があったことは確かです。しかし、われわれは中国のようにはやらないでしょう。なぜなら、監視国家などは望んでいないからです。民間企業は、政府による監視など望んでいないのです。しかしその一方で、「競争」は望んでいます。 「ガードレールつきのイノベーション」が望ましいですが、どうなるかはまだこれからです。 ――Signal Foundationの会長で元グーグル社員であるメレディス・ウィテカーさんは、データと計算能力が大手IT企業に集中することに懸念を示しています。新しい生成AIテクノロジーや、私たちが進む方向について上がっている懸念の声に対して、あなたはどうお考えですか。
AIの台頭についての懸念は、以前からありました。AIには、データの収集と蓄積が必要不可欠であり、膨大な計算能力が求められるからです。ウィテカーさんが危機感を抱いているような「研究とイノベーションをどこまで民営化するのか」という点に関しても、学識経験者は以前から懸念を表明していました。こうした問題への提案も出ています。たとえば、アレン人工知能研究所は最近、巨大なデータベースを公開しました。 ■現状は独占と言うより「寡占」
大規模言語モデルを構築しているIT大手に対しては、独占禁止法違反やデータ集中の懸念がこの数年ずっと存在してきました。「生成AIの誕生によって、データや権力の集中はさらに進むのだろうか?」などの疑問が起きるのは当然のことです。 中には、対抗策を取ろうとする動きも出ています。分散型のデータベース技術であるブロックチェーンや暗号資産、そしてオープンソースAIの構築です。これがどこまで発展するかについては、まだよくわかっていません。
ただ、集中ではなく分散へと向かう流れもあります。先ほど挙げたアレン人工知能研究所などもその流れの中にいます。果たして彼らが行うことは、不可能なのでしょうか。見極めるには時間がかかるでしょう。 とはいえ歴史を振り返ると、こうしたことはオープンソースの分野で、以前からありました。少し専門的な技術の話になってしまいますが、パソコンやサーバーには「Linux」というオープンソースのオペレーティングシステム(OS)が入っています。このOSが台頭したことで、マイクロソフトのウィンドウズは市場力を奪われました。