車いすの生徒「みんな優しくて通いやすい」 “合理的配慮”積み重ねる県立高校の今
障害のある生徒に間口を広げる公立高校が増えている。文部科学省によると、2023年度の入試で別室受験や問題文のルビ振りなどの「合理的配慮」を受けた生徒は4千人を超え、ここ4年で2倍近くに増えた。生徒が入学した後は、サポート態勢の構築や校舎のバリアフリー化も不可欠。こうした変化を積み重ねてきた学校の一つ、福岡県小郡市の県立三井高を訪ねた。 【写真】一般来場者も見学できる発表会に向け、手話付きで歌を練習する福岡県立三井高の生徒たち 「障害があるからお世話します、という態度だと誰もしてほしいと思わない。その人がどのような生活をしているのか、どんな性格をしているのか、分からないといけない」 12月上旬、普通科福祉教養コースの3年生の授業。担任の鬼塚孝幸さん(59)は、介護保険サービスの利用者と接する際の心構えを生徒に説いた。 このコースでは高齢者や障害者の生活を支える方法、福祉の制度などを日ごろから学習する。卒業後は介護や看護、リハビリの分野に進む生徒が多い。 20人ほどのクラスには車いすを使う女子生徒もいる。「学校にはエレベーターがあるし、福祉用語も学ぶ。みんな優しくて通いやすい」と感じているという。 同級生の向山美空さん(18)は「助け合えてクラスの仲が深まるし、車いすの人が不便なことに気付ける」。浮田陸馬さん(18)は「車いすの人と同じクラスは、この学校が初めて。高齢者福祉だけでなく、車いすの人と接するときに大事なことも意識するようになった」と話す。 障害がある人が同じ教室内にいるからこそ、学びのリアルさは増す。 三井高は、障害のある生徒が入学を希望する場合、前年の12月ごろから調整を始める。生徒、保護者、高校、中学の4者により具体的な内容を協議する。 例えば、手指の不自由な生徒の場合、1分間で書ける文字数を調べて入試の解答時間の延長を模索する。定期的なインスリン注射が必要な生徒の場合は別室受験を認めた。山口博充校長(58)は「どこまで配慮ができるのか、県教育委員会と確認しながら一つ一つ進める」と説明する。 入学が決まると、学校生活での支援を本格的に検討する。視覚障害がある生徒には、定期テストで文字を拡大した問題文を配布したり、授業の板書をスマートフォンで撮影することを認めたりした。 医療的ケアが必要な生徒が入学した22年春には、全日制の福岡県立高校では初めて看護師を配置。介助員もいるほか、疲れたときに休めるよう空き教室を控室に転用した。 十数年前から施設のバリアフリー化も進め、校舎にエレベーターや多目的トイレを設けた。校舎と別棟をつなぐ渡り廊下も設置し、別棟にある図書館へのアクセスをしやすくした。 文科省によると、公立高校が障害のある生徒の入試で実施した合理的配慮は、19年度の2155人(1825校)から、23年度は4121人(3154校)にほぼ倍増した。 ただ、この集計は一部でも対応していれば合理的配慮を実施した数として計上されており、申請者の要望に全て応えられたわけではないという。学校側の受け入れ体制などを考慮して、特別支援学校を選ぶケースも少なくない。 山口校長も受け入れに限界があることは隠さない。「障害のある生徒が入学するからといって教員が増えるわけではない。授業は通常通りで、特別支援学校のようなカリキュラムがあるわけではない」。その上で、「全日制の学校で学びたい生徒には、できるだけ応えたい。学ぶ中でできることが増えて自信がつき、将来の展望が開けることもある」と語る。 三井高では週1回、教職員が集まり、配慮が必要な生徒に関する会議を開いている。生徒の障害について情報を共有し、全員が参加しやすい学校行事の在り方などを話し合う。 「完成形があるわけではなく手探り」と山口校長。生徒それぞれの実像に合わせていく中で、教育現場は少しずつ変化している。 (編集委員・四宮淳平)
合理的配慮
障害者が設備やサービスの利用をすることを妨げる社会的障壁(バリアー)があり、当事者や家族が障壁を取り除くよう求めた際に、負担が過重にならない範囲で、必要で合理的な実現への手だてを講じること。2016年4月に障害者差別解消法が施行され、公立学校での合理的配慮が義務化された。入学試験では、別室での受験、解答時間の延長、問題文のルビ振りなどが実施されている。文部科学省は今年4月に改正した指針で、障害を理由とする不当な差別的取り扱いの例として、具体的な検討をしないまま受験や授業への参加を拒むことなどを挙げている。