突然ガン宣告されたら…あなたはどうする? 実話をもとに描いた闘病コミックエッセイ『鼻腔ガンになった話』著者インタビュー
ちょっと調子が悪いと感じた時、「仕事は休めないし…」「すぐに治るでしょ!」と、病院を受診せず自然に治るまでやり過ごした経験、ありませんか? 夫と2人の子どもと暮らす主婦のやよいかめさんも、その一人でした。風邪をひいてから鼻の不調が続いていたものの、病院を受診したのは数ヶ月後。精密検査を経て、ガン宣告を受けることに…。 【漫画を読む】『鼻腔ガンになった話』を最初から読む やよいかめさんが描く、鼻腔(びくう)ガンになった時の実体験をもとに描いたコミックエッセイがSNSで大きな話題を呼び、『鼻腔ガンになった話』『続・鼻腔ガンになった話』として書籍化。本作について、著者のやよいかめさんにお話をお聞きしました。 ■ただの風邪だと思っていたら…まさかのガン宣告! 「自分を大切にすることが大事な人を大切にすることにつながります」と語るのは、本作の著者・やよいかめさん。夫と子ども2人の4人家族で、子育てに引越しにと、慌ただしくも幸せな日々を過ごしていました。 ある時、家族全員で風邪を引き、他の家族が完治した後も鼻づまりがいつまで経っても治りません。症状が軽かったこともあり市販の薬でやり過ごしていましたが、だんだん鼻水やたんに血が混じるようになり、薬も効かなくなってしまいます。 そうして病院を受診したところ、まさかのガン宣告…。目の前が真っ暗になりながらも、考えたのは家族のこと。 「私が死んだら、子どもたちや夫はどうなるんだろう?」 『鼻腔ガンになった話』『続・鼻腔ガンになった話』には、突然ガンが発覚した主婦の闘病生活や夫と子どもたちとの絆などが、コミカルな要素を交えながら詳しく描かれています。 ■ガンになった経験が誰かの役に立つかもしれない ――陶芸家であるやよいかめさん。漫画を描き始めたきっかけは何だったのでしょうか? やよいかめさん:2017年の夏頃、鼻腔ガンの治療を終えて退院したときに「人間いつ死ぬかわかんないんだから生きてるうちにやりたいことをやろう!」と思い、iPadとApple Pencilを買いました。…といっても、私の専門は陶芸でデジタルイラストは専門外だったので、まずはデジタルの絵に慣れるために、LINEスタンプを作ってみたり、SNSにイラストをあげたりしていたんです。 ちょうどその頃に学習指導要領が変わったこともあり、ママ友と学校の英語教育への不安を話していた所だったので「英語で4コマ漫画を描いたら、ママ友にも子どもたちにも喜んでもらえるかも!」と思って「英語4コマ」を描き始めました。 ――漫画として、ご自身の体験を描こうと思ったのはなぜですか? やよいかめさん:SNSでガンについて書かれている投稿を見て、私がガンになった経験も誰かの役に立つかもしれないと思い、2018年から漫画を描き始めました。 ――本作はSNSやブログなどでも公開され、反響を呼んでいますね。読者の方から寄せたれた、印象に残っているコメントがあれば教えてください。 やよいかめさん:「私も鼻腔ガンです」といったメッセージを定期的に頂きます。 誰しも、ガンになったら不安で押しつぶされそうになってしまうんだと思います。その時はできる限り、元気を出してもらえるような返信を書こうと思っているのですが、不誠実な言葉は書きたくなくて…。きっと治る、絶対良くなる、というような言葉は言わないようにしています。手術が無事に終わること、治療を最後まで行えますようにと祈ることしかできないことが不甲斐ないです。 ■「ガンサバイバー」だからこその視点で描く ――ガン・闘病・手術といったデリケートなテーマが描かれている本作ですが、コミカルな要素も多く含まれていて、明るく前向きな作風が印象的でした。 やよいかめさん:がん患者の方々には、ツラい闘病生活の中でも「こういうことあるよね」と笑ってもらって、ちょっとでも元気が出るように。 気になる症状があるけど病院に行くのが怖いという人には、「そんなに怖くなさそう」と思ってもらい、早くガンが見つかるきっかけになるように。 そして元気な人には、「ちゃんと病院行かなあかんな」って思ってもらえるように…。 そんな思いを込めて描きました。 ――作中では、鼻腔ガンの治療や闘病生活についてリアルに描かれていますね。描く際に気をつけたことや大切にしたことを教えてください。 やよいかめさん:話の流れやその時の感情はできるだけ細かく描くようにしたのですが、薬の種類・放射線照射回数など、治療内容については具体的に描きませんでした。というのも、ガンになると治療が正しく行われているかどうかを確認するために、他の人と自分の治療を比較したくなると思うんです。でも、比較することで不安になってしまう場合も多いので…。だから、あえて細かい部分は書きませんでした。 ――実際にガン治療を経験したからこその視点ですね。 やよいかめさん:もう一つ、病気になったからこそ気づけたことがあります。 闘病中どうしても家に帰りたい・家族と過ごしたいという患者さんの強い思いや、年配の患者さんと少しでも打ち解けようと方言で話しかける看護師さんの優しさ、生きるために過酷な治療を続ける患者さんの決意など、近くにいたから気づけた、それぞれの人の思いがあります。そういう誰かのための思いはとても心に響いたし、漫画でなら伝えられると思って気合いを入れて描きました。 *** ご自身がガン治療の経験があるからこそ、現在も治療を続けている方、不安を抱えている方への配慮が随所に感じられました。コミカルな作風にも、著者・やよいかめさんの温かさと優しさが感じられますね。 取材・文=松田支信