夏休みに読むべき“教養としての”マンガとは?
夏休みも残りわずかとなり、宿題に追われている子どもたちも少なくないでしょう。その夏休みの宿題に定番なのが、読書感想文です。一般的には、今も昔もマンガは対象図書から除外されています。しかし、一読の価値のあるマンガ、教養として読めるマンガは、少なくありません。今春には朝日小学生新聞(朝日学生新聞社)と週刊少年ジャンプ(集英社)共同にて、『週刊少年ジャンプ感想文コンクール ジャン文』の開催が発表されました。応募締め切りは9月7日なので、夏休みの宿題がてら、あえてマンガをじっくり読むのもいい機会かもしれません。そこで、夏休みなどの長期休暇でじっくり読むべきマンガ、ためになる本として親から子へ推薦すべきマンガについて、作家エージェンシーの佐渡島庸平さんに聞いてみました。 「連載中の作品は、普段から読む機会があると思います。まとまった休みで、いつもとはちょっと違う作品をまとめて読みたいというのであれば、手塚治虫さんの作品を推薦したくなりますね。『火の鳥』、『ユニコ』、『アドルフに告ぐ』、『ブッダ』、『陽だまりの樹』など手塚さんの作品は、おもしろいだけでなくためになると思います。いずれも人間の光と闇が描かれていて深い作品で、『ブッダ』はブッダや仏教について勉強になります。『ユニコ』は、女子児童向けに書かれた作品でありながら、社会問題もテーマに入っていて、男性や大人でも十分読み応えのあるものとなっています。」 また、定番中の定番ですが『SLAM DUNK(スラムダンク)』(作者:井上雄彦)も、読むべきマンガの1つに挙げます。連載が始まった1990年当時、バスケットボールは学校体育などで知名度の高いスポーツではあったものの、ルールや特有の戦術や用語などは一部経験者でのみ共有されるだけで、人気スポーツではありませんでした。しかし、この作品を通じて人気は高まり、バスケットボールブームが巻き起こりました。 「素晴らしい作品というのは、いつ読んでも新しさを感じます。僕は、今、手塚治虫さんを読んでも、現在の作家よりも、挑戦的だとすら感じることがあります。井上雄彦さんも同じ。手塚さんと井上さんは、マンガの歴史に大きな影響を与えた作家だと思います。」と佐渡島さん。「井上さんの描くキャラクターには、すごくリアリティがあります。だから『SLAM DUNK』の主人公桜木花道について話すと、まるで高校時代の同級生の思い出話をしているようになります。現在連載中の『バガボンド』と『リアル』もお勧めです。『SLAM DUNK』とはひと味違う、読み応えがあり、作品世界に没頭できるはずです。」 佐渡島さん自身が携わった作品として『宇宙兄弟』も、“推薦図書”として挙げます。「アニメが始まって、読者層が一気に広がったのですが、いただくファンレターも8歳~70歳と一気に幅が広くなりました。『マンガを読んで、宇宙飛行士になりたいと思った』という子供からの手紙だけでなく、『宇宙飛行士になるために、どれだけ勉強すればいいのかが、宇宙兄弟を読んでわかったみたいで自発的に勉強するようになってくれた』という親から感謝の手紙も来ます(笑)。夢の扉を開く役目をマンガが担ってもいいと思うし、身近なお手本になってくれていると思います」。 さらに、最近のマンガの特徴として、調査の徹底ぶりがあります。『インベスターZ』(作者:三田紀房)は、投資についての詳しい取材によって証券業界の方が読んでも満足いく作品となっています。『ブラックジャックによろしく』(作者:佐藤秀峰)『医龍-Team Medical Dragon-』(作画:乃木坂太郎、原案:永井明、医療監修:吉沼美恵)『JIN-仁-』(作者:村上もとか)『Ns’あおい』(作者 こしの りょう)など近年の医療ものは、医療監修を迎えてリアリティ溢れる作品に仕上げています。専門的な情報をマンガとして、わかりやすく描いているので、教養書に匹敵する情報が詰まっていることも少なくありません。 かつての子どもたちは「マンガばっかり読んでないで勉強しなさい」と怒られていましたが、そんな時代から、マンガを併用して、教養を得る時代へと移り変わってきているのかもしれません。 ■佐渡島庸平(さどしま・ようへい) 2002年に講談社に入社し、週刊モーニング編集部に所属。『バガボンド』(井上雄彦)、『ドラゴン桜』(三田紀房)、『働きマン』(安野モヨコ)、『宇宙兄弟』(小山宙哉)、『モダンタイムス』(伊坂幸太郎)、『16歳の教科書』などの編集を担当する。2012年に講談社を退社し、作家のエージェント会社、コルクを設立。