『セキュリティ・チェック』は傑作“120点”映画 ジャウマ・コレット=セラの職人技が光る
Netflixオリジナル映画『セキュリティ・チェック』はクリスマスにこそ相応しい作品だ。クリスマスの空港を舞台に一見冴えない男が孤軍奮闘するスリラー映画として『ダイ・ハード2』(1990年)以来の傑作だから、というだけではない。エンドロールに突入し、この作品に携わったスタッフ、キャストの名前が流れるのを眺めながらほっと一息ついて「面白かったな……」としみじみ思える。そんな作品だからだ。 【写真】ただ受け流すしかない顔の演技がすさまじく上手いタロン・エジャトン 警察官になる夢を諦め、ロサンゼルス国際空港の運輸保安官として燻ぶった日々を過ごすイーサン(タロン・エジャトン)。妊娠した恋人ノラ(ソフィア・カーソン)からは「もう一度警察官を目指したら?」と優しく促され、微妙な顔(このタロン・エジャトンの燻ってる男がマジで言われたくないことを言われた時のただ受け流すしかない顔の演技がすさまじく上手い)をするしかない日々を過ごす。 そして迎えたクリスマスイブの日。手荷物のX線検査に配属されたイーサンは突如謎の男に脅迫される。「恋人の命と引き換えに、仲間の荷物を通せ」と。しかも謎の男は脅迫するだけでは飽き足らず、イーサンが如何に情けない男であるかをネチネチと説教してくる。さらには「密輸品のダイヤモンド」と説明された荷物をX線検査に通すとすさまじく危険なものが映っており……。空港の利用客と恋人の命を守るため、イーサンは命を懸けた危険な駆け引きに挑む。 今年のNetflixオリジナル作品は大変なことになっている。去年までのNetflixオリジナル映画の印象は全体的に65~75点くらいの煮え切らない作品が多く、たまに120点級の大傑作を叩き出す、といった感じだった。それが今年は『ロスト・イン・シャドー』に『武道実務官』、『レベル・リッジ』や『セーヌ川の水面の下に』。そして日本からは『シティーハンター』など、世界各国から90~120点くらいの突き抜けた傑作映画が揃い踏みした。 そんな2024年の充実ぶりを象徴するかのように年末を飾るのが、配信されるや否や連日「今日の映画TOP10」の1位に君臨し続け、X(旧Twitter)上でも話題を集めるサスペンススリラー映画『セキュリティ・チェック』だ。 本作の監督を務めるのはジャウマ・コレット=セラ。『フライト・ゲーム』(2014年)や『トレイン・ミッション』(2018年)など限定シチュエーション下でのスリラーを得意とする監督で、なんとなくのイメージで恐縮だが、手堅く65~75点くらいの面白さを安定して叩き出す職人監督という印象だ。 そういう意味では実にNetflixらしい監督と言えるが、煮え切らなさが目立つNetflixオリジナルと違い、狙ってこの点数を叩き出していそうな技術力の高さを伺えるのがジャウマ・コレット=セラの渋いところだ。 というわけで65~75点映画配信サービスのNetflixと65~75点映画職人のジャウマ・コレット=セラが手を組んだ。ジャンル映画としてまったく新しいものを提示してくれた『レベル・リッジ』のジェレミー・ソルニエや死と暴力の総数で我々の度肝を抜いてきた『ロスト・イン・シャドー』のティモ・ジャヤントと違い、まあまず間違いなく65~75点くらいのスリラー映画を撮るのだろうと思っていた。だが、蓋を開けてみたらどうだ。 ジャウム・コレット=セラの職人的技術力の高さが完璧に昇華された大傑作が爆誕した。65~75点映画を期待して観たら90~120点映画を見せつけられた。