女性監督の連帯進む映画界 切り開いた道、共に歩むために 「東京国際女性映画祭」が遺したものとは
ロールモデルの重要性
今回のシンポジウムを通じて、こういった取り組みが映画界だけでなく社会の様々な場所で広がると、女性たちがよりしなやかに強く生きるための気づきを、世の中に与えてくれるのでは、と私は思いました。 私は西川美和監督とほぼ同年代の就職氷河期世代。2000年から朝日新聞で働いてきましたが、就職した当時はロールモデルといえる女性の先輩に出会えませんでした。何十年も働き続けている女性の姿がほぼ皆無で、出産した女性は退職するか、編集の職を離れるかの選択しかないようにみえたのです。「この仕事を続けるならば、子供を持たない方がいいのだろう」と思ったのも西川さんと同じ。でも、実は私の前を歩いて道を切り開いてきた女性の記者は、少なからずいたのです。私が知る機会がなかっただけでした。 西川美和さんは「もし自分が『映画をつくる女性たち』に出てきたような上の世代の女性監督とのパイプが当初からあれば……もう少し違う視野を持てたのかもしれない」と後悔と反省が織り交じった心境を語っていました。私も同感です。だからこそ、今から何ができるのかを考え、行動に移した西川さんのことを、同年代として尊敬します。 普段は別々の道を歩んでいても、困難に直面した人を見たらそっと手を差しのべる。そういったゆるやかな連帯が映画界だけでなく社会のあちこちで広がれば、もっと個々が生きやすくなるのではないでしょうか。そう思わせられた一日となりました。
文:伊藤恵里奈