高校生+EVスクーターが電動バイク普及の切り札になる⁉……〈多事走論〉from Nom
埼玉県秩父市にある県立秩父農工科学高校。農業や林業、食品関係、電気や機械などの工業関係を約800人の学生が学ぶこの学校で、3月5日に非常にユニークな授業が行われた。原付で通学する学生に対し、ホンダの電動スクーター・EM1e:の開発者が講義を行い、さらに校内で試乗まで行うというもので、電動モビリティとカーボンニュートラルについて考えてもらおう…という試みだ。 【この記事の写真をまとめて見る】高校生+EVスクーターが電動バイク普及の切り札になる⁉……〈多事走論〉from Nom
EM1e:の開発エンジニアが高校で講義
ライダーにはなじみの深い埼玉県小鹿野町の近隣にある県立秩父農工科学高等学校。800人余りの学生が学ぶこの高校は安全運転教育にも積極的で、約50人の男女学生が原付で通学をしています。 この高校で3月5日、非常にユニークというか、とても興味深い授業が行われました。 それは、ホンダの電動スクーター・EM1 e:を題材に、ホンダのエンジニアが2名参加して講義を行い、午後からは希望者がEM1 e:を試乗する(それも高校の敷地内で!)というもので、タイトルは「高校生と考えるカーボンニュートラルと電動モビリティ」でした。 ご存じの方も多いと思いますが、埼玉県は脱3ない運動の先頭を行っている地域で、前述のようにこの高校もバイク通学が認められていますが、まだまだ3ない運動により高校生がバイクに乗ることを禁じている自治体が多いなかで、バイクに付いての講義→その後に試乗というのは非常に画期的な出来事。当日の模様と、なぜこんなことが実現したかをご説明しましょう。
秩父市はカーボンニュートラルシティを宣言している
当日、講義を受講したのは電気科/機械科の2年生、76人。高校で3年間、機械に関する技術と電気について学ぶ学生たちですから、当然、バイクにも興味津々。 さらに今回の題材は電気で動くEVスクーターですから、新たなモノとの出合いに心をときめかせ、さらに講師はEM1 e:を作ったHondaのエンジニアである後藤香織さん(EM1 e:の開発責任者)と内山一さん(EM1 e:の開発責任者代行)なのですから機械と電気を学ぶ学生にとっては最先端の知識を深める千載一隅のチャンスなのです。 では、なぜ高校生とEVスクーターという組合せなのか。 ひとつは、前述のようにここ秩父農工科学高校は原付での通学を認めていて、実際に多くの学生が通学にバイクを使用しているため、やっと普及し始めたEVスクーターには当然興味を抱き、強い関心を持っているということ。 そして、秩父市は2050年にCO2排出量実質ゼロを目指す「カーボンニュートラル(以下CN)宣言」を行っていて、ゼロエミッションのEVスクーターは秩父市にとってCNを促進する有効な手段であると考えられるため、日ごろから原付に乗っている学生たちにEM1 e:の存在と有効性を深く知ってもらおうということ。 【ホンダEM1e:】ホンダが2023年に発売した原付1種クラスの電動スクーター。着脱式のバッテリー「ホンダモバイルパワーパックe:(MPP)」を1個搭載し、1充電あたりの走行距離は53km。価格はMPP1個と専用充電器を含んで29万9200円だが、補助金などで50ccガソリン車同等の24万円程度で購入可能な自治体も。 そしてもうひとつ、ご存じの通りEVスクーターはゼロエミッションという大きなメリットがある乗り物ですが、まだまだ発展途上で航続距離が短く(EM1 e:は53㎞・30㎞/h定地走行値)、充電インフラも整っていないというネガもあり、どうしてもその部分だけがフィーチャーされ、従来の原付スクーターよりも不便な乗り物ととらえる向きもあります。 ただ、通学で使用する場合は、満充電状態で学校への往復ができれば、帰宅して自宅でバッテリーを充電、翌日は再び満充電のバッテリーをバイクに装着してスタートというサイクルでEVスクーターを便利に使用できます。片道20分程度の通学使用なら、EM1 e:は十分その役割を果たしてくれるのです。 「EVスクーターは高校生の通学用として非常に親和性が高い。多くの場合、高校生には親がバイクを買ってあげるわけですが、EVバイクは音はしないし、においもしない。スピードもそんなに出ないからヤンチャなこともしないだろうし、走行距離もあまり長くないからそれほど遠くにも行けない。高校生が最初に乗るバイクとしては、とても適していると思います。バッテリー容量に関しても、たとえば充電ステーションを秩父市役所や学校に設置すればインフラの問題も解決でき、使い勝手はとても向上します。自治体のCN化にも貢献できますからね。いま、日本全国でバイク通学を認めている高校は180校あるそうですから、安全運転教育も一緒に行うことで、ここを皮切りに全ての高校で同じようなことをやりたいくらいです」 当日、視察に来ていたホンダモーターサイクルジャパン(以下HMJ)の室岡克博社長はこのように語っていました。