書き手の意図を読み取り、読者の反応を推し量る。「校正能力」を持てば社会はもっと平和になる!
髙橋 毎日発行されている『官報』を読んでいると、連日、法律の訂正が載っています。こんなに間違いがあるのかと驚きました。 あらためて調べてみると、最高法規である「日本国憲法」にも誤植があるというのです。校正者の間では常識だそうで、明らかな間違いは第七条「天皇の国事行為」の第四号「国会議員の総選挙の施行を公示すること」という一文です。「総選挙」とすると衆議院選挙のみを指してしまいます。 ――参議院は半数改選ですから、総選挙ではない......。 髙橋 しかし実際には参議院選挙でも天皇の公示は行なわれていますから、「総選挙」の「総」の字が誤植なんです。 憲法改正議論が盛んに取り沙汰されますが、「改正の前に校正」をすべきだと思います。立法した人の思いに寄り添い、今の時代に合うように校正する。「改正より校正を」です。 ――『ことばの番人』を読んでいると、自分にも校正能力が欲しいと思うようになりました。 髙橋 みんな自分の中に校正者を持ってはどうでしょう。世の争い事の多くは「校正不足」が原因ですから。間違い探しや揚げ足取りをするのではなく、校正能力を身につける。そうすれば今よりも平和な社会になるんじゃないかな。 ●髙橋秀実(たかはし・ひでみね)1961年生まれ、神奈川県横浜市出身。東京外国語大学モンゴル語学科卒業。テレビ番組制作会社を経てノンフィクション作家に。2011年『ご先祖様はどちら様』で第10回小林秀雄賞、『「弱くても勝てます」開成高校野球部のセオリー』で13年に第23回ミズノスポーツライター賞優秀賞を受賞、『からくり民主主義』(すべて新潮文庫)。『道徳教室』(ポプラ社)、『おやじはニーチェ 認知症の父と過ごした436日』(新潮社)など著書多数 ■『ことばの番人』集英社インターナショナル 1980円(税込)「文化」とは「文による感化」を指す。しかし、SNS上での揚げ足取りや誹謗中傷が絶えない現代は文化衰退の危機にあるのではないか。今こそ校正能力が求められているのではないか。そう感じた著者は、日々、新しいことばと出合い、規範となる日本語を守っている校正者、いわば「ことばの番人」たちの元を訪れる。さまざまな文献や辞書をひもときながら、日本語の校正とは何かを探るノンフィクション 取材・文/矢内裕子 写真/幸田 森