「SBとしてどう生きるか」菅原由勢が出した答え。サッカー日本代表アジア杯の挫折から1カ月半で模索したスタンス【コラム】
日本代表は21日、FIFAワールドカップ26アジア2次予選で北朝鮮代表と対戦し、1-0で勝利した。AFCアジアカップカタール2023で苦戦が続いた菅原由勢は、クラブで確かな結果を残して日本代表に戻ってきた。挫折からの返り咲きを図る23歳は、国立競技場で確かな前進を見せていた。(取材・文:元川悦子)
●「自分自身に腹が立っている」アジアカップで不調にあえいだ菅原由勢 AFCアジアカップカタール2023で惨敗し、チーム再建が急務の課題となっていた日本代表にとって、3月21日のFIFAワールドカップ26アジア2次予選・北朝鮮代表戦は再スタートを切る上で重要な一戦だった。 欧州での超過密日程、中4日で迎える平壌でのアウェイゲーム(平壌開催中止が決定)も視野に入れ、森保一監督はキャプテン・遠藤航や久保建英らを温存。コンディションや戦略的な狙いもふまえて、田中碧や前田大然らフレッシュなメンバーをピッチに送り出した。 右サイドに関しても、アジアカップで効果的な連係を見せていた毎熊晟矢と堂安律の縦関係で頭から行くと思われたが、ふたを開けてみると菅原由勢と堂安というコンビで戦うことになった。 ちょうど1年前の2023年3月に発足した第2次森保ジャパンで右サイドバック(SB)のファーストチョイスと位置づけられ、ドイツ代表やチュニジア代表などカタールW杯出場の強豪国撃破の原動力となってきた菅原。だが、アジアアップではまさかの不振に陥り、毎熊に先発の座を明け渡す格好になっていた。 「満足できるパフォーマンスじゃ到底ないのは、自分自身が一番よく分かっている。もう本当に今の自分がすごく不甲斐ないし、自分自身に腹が立っている。『こんなもんじゃないだろう』というのをしっかりピッチで示さないといけない」。菅原はカタールで怒りに似た感情も吐露していたが、結局、最後まで本来の力を出し切ることはできなかった。 ●復活への第一歩。右サイドバックで担うタスク それから約1カ月半が経過し、再び与えられた先発のチャンス。今回は圧倒的な個の力で右サイドを打開できる伊東純也が不在ということもあり、菅原・堂安でひと味違った攻撃の打開策を示さなければならない。そんな重要なタスクも背負いながら、背番号2はゲームに入ったのだ。 この日の日本代表はキックオフから非常に強度の高い守備を披露。開始早々の2分に前田のプレッシングから幸先のいい先制点を手に入れることに成功する。 前田からボールを受け、左サイドで敵を引きつけた上田綺世がポケットの位置に入ってきた田中にパス。田中が入れたクロスを堂安が折り返し、トップ下の南野拓実がシュートを放ったが、DFに当たってこぼれ、再び堂安がフォロー。今度はマイナスのボールを入れたところ、飛び込んできたのは田中碧。最近、所属先で複数ゴールを挙げているボランチが右足を振り抜き、待望の1点目をゲット。チームを大いに勇気づけたのだ。 直後にも前田のボール奪取から決定機が生まれ、これが入っていたら、早い段階で試合が決まっていたかもしれない。だが、結果的にはそうならず、相手に希望を与えてしまったわけだが、日本としては組織的なプレッシングから縦に速い攻めを意識。主導権を握って、攻め続けた。 右SBの菅原も前半11分に自らドリブルで持ち上がって守田英正の決定機の起点を作ると、リスタートのキッカーとして何度かチャンスを演出。堂安との縦関係で右サイドを切り裂くシーンも見せた。 本人は堂安との関係性をこう振り返る。 ●「この1カ月半は考え直した」 「律君とはつねにやりやすいなと思っているし、お互いを見ながらポジショニングができ、コミュニケーションも取れている。律君の強みを出してあげたいとも思ってたし、僕の強みも律君は尊重して引き出してくれた。いい関係ができていたと思います」 堂安との相乗効果で本来の躍動感や推進力が戻ってきたのも確か。前半の彼は前向きな印象を残したと言っていい。 「アジアカップもうは過去のこと。この1カ月半は、自分がどういう選手で、どういうプレーをすべきなのかをしっかり考え直したし、どういう強みを出して生きていくべきなのかを改めて模索した。やっぱり僕は攻撃のところで数字を残していくSBにならなきゃいけないし、とにかくアグレッシブに攻守に絡んでいく強みを突き詰めてやりたいと。そういったスタンスで取り組んだ結果、チームで数字もついてきている。それを代表でも出そうと思ったんです」 こう語気を強めた菅原は、日本代表として初めて挑んだビッグトーナメントでの挫折を糧に、いい意味での割り切りをピッチ上で示そう最大限トライしたという。 だからこそ、ゴールやアシストという明確な結果に直結するプレーがほしかった。実際、それに近いチャンスはあったが、クロスの精度を欠いたり、ボール1つ分ズレたりと、課題に直面した。後半も推進力や躍動感は示し続けたものの、決定的な仕事を見せられず、本人も悔しさを覚えたはずだ。 ●さらなる前進への起爆剤。長友佑都や橋岡大樹から受ける刺激 後半に入ると、日本代表はギアを上げてきた北朝鮮代表に攻め込まれ、アジアカップのイラン代表戦のようにシンプルにロングボールを蹴り込まれる流れになった。そこで、森保監督は迷うことなく5バックにスイッチ。虎の子の1点を守り切る策に打って出た。その時点で菅原はベンチに下がり、交代した橋岡大樹のプレーを外から見ることになった。 個の打開力を前面に押し出したライバルの一挙手一投足を目の当たりにし、彼は大きな刺激を受けた様子だった。今回戻ってきた37歳のベテラン・長友佑都も含め、右SBの競争の厳しさを痛感したことも事実だろう。アジアカップで活躍した毎熊がベンチ外になるのだから、菅原もウカウカしてはいられない。そういった危機感を強く抱いたことも、1-0で逃げ切った北朝鮮代表戦の収穫だったのではないだろうか。 「今日の自分のパフォーマンスはまだまだ全然だったし、やれること、やらなきゃいけないことが沢山あるなと感じましたね。橋岡選手も長友選手も力があるから代表に来ている。その活躍を見たら刺激になるのは当然だし、自分も負けてられないなとも思いました」 菅原は新たな闘志に火がついたという。彼はこの一戦をさらなる前進への起爆剤にしなければいけない。果たして彼は熾烈な右SB争いに勝って、再びファーストチョイスに君臨し、日本代表を勝たせられる存在になれるのか。再起を賭けたチャレンジはここからが本当のスタートだ。 (取材・文:元川悦子)