川谷絵音が振り返る2023年の音楽シーン
川谷絵音の2023年を総括
―最後に川谷さん自身の一年を振り返ってもらおうと思います。アルバムを3枚出して、ツアーやフェス出演も多かったですし、かなり精力的な一年だったかなと。 川谷:最初にインディゴで出した「名前は片想い」がちゃんとヒットしたので、それは良かったかなと思いますけどね。サブスクでちゃんと回ってたっていう。 ―Spotifyの再生回数はもう「夏夜のマジック」と同じくらいになってますもんね。 川谷:2900万回とかで、MVも1000万超えたし、2年半ぶりにアルバムも出せたので、それはよかったです。その前はジェニーハイもアルバムを出して、初めて10カ所もツアーを回ったし、礼賛が今いい感じで。Spotifyのリスナー数はまだ全然なんですけど、ライブの集客だけなぜかものすごくあって、武道館ができるくらいの集客があって。サーヤちゃんの人気とかカリスマ性もあるんですけど、集客だけ異常な感じになってるんですよ。だからもう土壌ができているというか、礼賛は一曲ヒットが出れば化ける可能性がすごくあるなって。 ―このインタビューの最初に「海外では女性が強い」という話がありましたが、もちろん日本にもアイコニックな存在は何人かいるけど、サーヤさんはまた新しいポジションを獲得できる気がして。それこそお笑いも含めていろんなクロスオーバーができるし、活動のスタンスも独特だし、「スケベなだけで金がない」とか歌詞のセンスも面白いし。 川谷:ライブでも男女ともにファンが多いので、すごくバランスが取れてるというか。サーヤちゃんってすごく女性的でもあるし、でも下ネタもめっちゃ言うし。 ―海外の女性アーティストはみずからの恋愛をそのまま歌詞に落とし込んで、それが共感を得てたりするけど、日本でそういうのってあんまりないじゃないですか。でもサーヤさんは彼氏の話とかも普通にしていて、そういう歌詞の曲も聴いてみたいなと思ったり。 川谷:アルバムが出てからもうすぐ1年くらいで、だんだんサーヤちゃんの中でも、やりたい音楽が固まってきているというか。この前もまだ出てない新曲で、自分の内面を吐露するみたいなラップの曲を書いていて。ああいうのも今までなかったから、だんだん自分のなかでもミュージシャンとしてのスイッチがちゃんと入ってきた感じがするし、サーヤちゃんはアイコンになる気がしますね。個人事務所でやってたり、色々な判断も早いし、すごく自分がある人で。ツアーのポスターとかグッズも全部「こういう感じで」みたいな、トータルプロデュースも自分でやっていて。なおかつ周りに僕らもいるから、ちゃんと役割分担もできてるし。 ―もちろんライブを見に行ったら演奏もすごいし。 川谷:ドラムとベースがあんなに目立ってるバンドも最近なかなかいないと思うし、ただトラックでサーヤちゃんがラップするよりも、生バンドでやる方が面白いかなって。礼賛は今すごく可能性を感じてますね。 ―ジェニーハイもバンド像が確立されたというか、アルバムにはタイアップ曲も多かったし、それだけいろんな人に認知されて、求められる存在になって、そのなかでもフィーチャリングを含めてトレンド感のあるものをどんどん取り入れて、アウトプットできる場になっているなって。 川谷:ツアーが終わってしばらく会ってないので、そろそろ曲を作り始めようと思うんですけど、今はゲスのアルバムを作ってるんですよ。ゲスは2023年に一曲も出してなくて、穂奈美ちゃん(ほな・いこか)が相当忙しいっていうのはあるんですけど、2024年はゲスが動く年になるかなって。 ―海外での日本の音楽の聴かれ方も変わってきて、2023年はアニメ関連以外のヒット曲も増えてきましたが、川谷さんのなかでの海外に対する想いはいかがですか? 川谷:インディゴのアー写を台湾で撮影したので、「2024年はライブをしよう」みたいな話はしていて……もうちょっと考え方を変えないとな、みたいなのがちょっとあるんですけど。 ーというと? 川谷:2023年はアルバムを作るのに必死になりすぎて、あんまり外のことを考えられなかった時期が長かったので、もうちょっと内需を無視したものも考えないといけないなっていうのは、インディゴの『哀愁演劇』を出してからちょっと思って。ずっと思ってはいたんですけど、どうしても国内の動きを気にしちゃって、海外の音楽はリスナーとして向き合ってきたところがあるから、そこは考え方を変えないとなって。Lampみたいないい例もあるし、やっぱりTikTokは今もう切り離せないと思うので、そのあたりはもっと上手く付き合っていかないといけないなっていう感じはあります。もうちょっと、いい意味であざとくできたらいいのかもしれないなって。 ―それこそトータルプロデュース的な目線で。 川谷:自分以外でそういうのやりたいですけどね。曲提供はもちろんいいんですけど、それだけじゃなくて、外側の見せ方までトータルプロデュースするっていうのをやりたいです。そういうことに興味があります。 ―それは見てみたい気がする。でもさっきのキタニくんの話みたいに、川谷さんは下の世代との繋がりもあるから、そこも巻き込んで面白いことができそう。 川谷:やりたいですけどね、本当に。何かもっと面白いことができるはずなんだよなって、ずっと思ってるんですよ。
Atsutake Kaneko