川谷絵音が振り返る2023年の音楽シーン
imase、なとり、Vaundyの飛躍
―では続いて、国内アーティストのランキングを見ていきましょう。 川谷:Mrs. GREEN APPLEは国内だと1位だけど海外のランキングには入ってなくて、バランス的にはやっぱりYOASOBIが強いですね。まあ、海外のほうはアニメの曲をやってないと難しいっていうのもありますもんね。アニメイコール海外で聴かれるものだと思うので……藤井 風はやってないですけど。 ―「死ぬのがいいわ」が「海外で最も再生された国内アーティストの楽曲」で2年連続1位というのはすごいですよね。 川谷:XGもアニメじゃないので、やっぱり強いですね。imaseくんも2023年になってより売れたというか、それこそJUNG KOOKが反応したりもあったと思いますし、韓国のMelonのチャートに入ったりとか、海外進出してますもんね。 ―藤井 風とXG以外だと、2023年はimaseとなとりがアニメ関連以外でグローバルヒットを出したことが特筆すべき点かなと。 川谷:imaseくんは本当に海外ナイズしてますよね。曲自体ちゃんと狙って作ってるのもわかるし、それがちゃんといい具合になってるというか、日本でもちゃんと流行りそうなのがいいバランスだなって。2023年に新しく飛び抜けた人と言ったら、やっぱりimaseくんなのかもしれないですね。 ―なとりに対してはどんな印象ですか? 川谷:なとりくんも作り方が上手いなと思います。短いバージョンをTikTokにあげて、バズってから曲にするっていう、今ちょっと流行りのやり方というか。imaseくんと同じで、流行りそうな曲がちゃんとわかってるなって。VaundyがJ-WAVEを研究して「東京フラッシュ」を作ったように、今の人たちはちゃんとシーンを研究して作ってる感じがします。さらに、声にもちゃんと個性があるから、みんな声を聴くだけでこの人かなってわかるようになってきているかもしれないですよね。 ―最初に名前が挙がったミセスはどうでしょう。 川谷:新しいアルバム(『ANTENNA』)はすごく良くて、全部スウェーデン語で歌ってる曲とかあって(「norn」)。最初の頃はもっとポップス寄りでしたけど、新作ではいろんなことをやっていて、歌い方も曲によって違うし、演奏力もある。音楽好きにはちょっと誤解されているのかもしれないですよね。キラキラしているというか、SNSでもかなりシェアされていてアイドル性もあるから。でも実は、音楽的にもかなりすごいバンドだと思いますけどね。 ―Vaundyは「国内で最も再生されたアーティスト」の2位で、「怪獣の花唄」が「国内で最も再生された楽曲」の2位、『strobo』(2020年リリース)が「国内で最も再生されたアルバム」の2位と、国内ではミセスと並んで2023年の顔だったかなと。 川谷:Vaundyはそれこそトータルプロデュース的な考えを持っている人だと思いますね。いい意味で、自分というものがあるようでないし、ないようであるというか。藤井くんはパーソナリティにも音楽にもファンがついていて、ちゃんと広く聴かれてるのに玄人からも好かれてるって完璧じゃないですか。Vaundyはもっとしっかり研究して、毎回自分じゃない誰かになっている感じというか、それがすごいと思います。そのぶん手癖は見えにくくて、Vaundyっぽさがいい意味でない。本当はあるんだけど、見えにくいというか。 ―でも圧倒的な歌声の記名性を持っているから、そこでちゃんとVaundyの曲にしている。 川谷:結局歌で全部持っていけますもんね。『replica』を出して、2024年以降もまたいろいろ考えていると思うので、Vaundy周辺はまた何か面白いことが起きそうな感じしますけどね。 ―これまでは基本的に全部自分でやってたのが、「トドメの一撃」でコリー・ウォンをフィーチャーしたりとか、また次への動きも見られて。海外も含めて、もっと外とも関わりながらやっていくことになるのかもしれない。 川谷:「海外で最も再生された国内アーティスト」のランキングだと2023年は17位ですけど、2024年以降、これがもっと上がってくるかもしれないですよね。