【イベントレポート】本木雅弘「海の沈黙」を「覚悟を決めてお受けした」、倉本聰は作品に込めた思い語る
映画「海の沈黙」の記者会見と舞台挨拶付き先行上映が10月13日に北海道・札幌で行われ、キャストの本木雅弘、小泉今日子、菅野恵、原作・脚本を手がけた倉本聰、監督の若松節朗が参加した。 【画像】「海の沈黙」記者会見に参加した主演・本木雅弘 同作は世界的な画家・田村修三の展覧会で贋作事件が起き、事件の報道が加熱する中、北海道・小樽で女性の死体が見つかることから展開していく。本木が表舞台から姿を消した天才画家であり2つの事件の間に浮かび上がる津山竜次、小泉が竜次の元恋人で田村の妻・安奈、菅野が竜次を慕うバーテンダー・あざみを演じた。 本作の着想元となったのは、1960年に起こった“永仁の壺事件”。鎌倉時代の古瀬戸の傑作として国の重要文化財に指定されていた瓶子(へいし)に贋作の疑惑が持ち上がり、重要文化財指定の解除、文部技官が引責辞任する事態となった出来事だ。倉本は「(偽物だとわかると)皆が美の価値を下げてしまう風潮に納得がいかず、なんとかドラマにしたいと思っていた」と語る。 本木は「北海道を皮切りにプロモーションが始まることを非常にうれしく思います」「繊細さ、かたくなさを秘めた難しい役で苦労しましたが、熟練の若松監督の支えもありながら、なんとか乗り切ることができました」と述懐。倉本が脚本を執筆した映画に出演するのは「海へ See You」以来36年ぶり。本木は本作について「憧れるような魅力の詰まった作品であり、その中の竜次というキャラクターが私で成立するのか。戸惑いもありましたが、今回は“正真正銘最後の作品になる”というオファーだったので、覚悟を決めてお受けいたしました」と強い思いを口にした。 倉本作品でオファーがあった際、都合が付かず出演できなかった過去を明かした小泉は「いつかリベンジしたいという気持ちがあったので、今回お話をいただいたときにこれで心がスッキリできると思いました。60年、先生が温めてきたテーマ。先生の心に引っかかっていたものを流すタイミングでご一緒できてうれしかったです」と話す。また今作でスクリーンデビューを果たした菅野は「そうそうたる先輩方、監督、そして倉本先生から言葉をいただきながら、まだまだ力及ばずだなと感じることもたくさんありましたが、映画は本当に素敵な仕上がりになりました」と述べる。 若松は「監督であれば誰しも一度は倉本聰の脚本を演出したいと願います。しかし相当厳しくやられるのだろうなという不安もありました。しかし倉本さんはとても優しいお方で、背中をずいぶん押していただいきました。本木さん、小泉さんたちの力を借りて先生の描きたかった世界観ができあがったような気がします」と語った。 TOHOシネマズ すすきので行われた先行上映では、大きな拍手が起こる中、登壇者たちが姿を現す。倉本と電話で話した際を振り返った本木は「倉本作品で定説として言われている『セリフを一字一句最後まで書かれている通りに話せ』というのは、そのようにしたほうがよろしいのでしょうか?と伺ったら、『それはちょっとうわさが一人歩きしたんだ』と。『心情に沿っていれば、感じたままにおやりになればよろしい』とおっしゃっていただきました」とエピソードを披露する。小泉は「倉本先生が書かれたテーマにまず惹かれて、そして主演が本木さんだと聞いて、これはきっと面白く素敵な映画になるだろうなと思い参加しました」と、菅野は「子供の頃から見ていた方々の中に私の名前が並ぶチャンスをもらえたので、しっかり準備して、やるぞ!という意気込みで臨みました」と当時の心境を話す。 倉本が脚本を手がけ、HBC北海道放送が制作した「東芝日曜劇場」の作品群を手本にしたという若松は「倉本さんの北海道を舞台にした作品がいっぱいありまして、それが僕の教本でした。倉本さんと一緒に仕事ができるということが、監督としての誇りです」「本作でも倉本節といえるセリフもたくさん出てきます。ぜひ楽しんでもらえたらと思います」と期待をあおる。そして倉本は「皆さんがおじいさん、おばあさんになったときに、孫に昔、北海道はこうだったんだという昔話をできるような映画になればいいなと思います」と願いを込めてイベントを締めた。 「海の沈黙」は11月22日より全国ロードショー。 (c)2024 映画『海の沈黙』INUP CO.,LTD