<ライブレポート>久保田利伸、王道のグルーヴィー・ポップスで踊らせる久々の全国ツアー【佐藤さん、いつものでよろしいですか?】(セトリネタバレなし)
久保田利伸の全国ツアー【TOSHINOBU KUBOTA CONCERT TOUR 2024-2025 『佐藤さん、いつものでよろしいですか?』】が10月16日および17日の2日間にわたって、東京・NHKホールにて行われた。 その他の画像 近年は、2020年にブルーノート東京で開催された【TOSHINOBU KUBOTA "Bossa & Lovers Rock Night"】を始め、小編成による企画性の高いコンサートが続いていた久保田。本格的なホールツアーとなると、コロナ禍によって延期や振替、キャパシティの制限を余儀なくされた【TOSHINOBU KUBOTA CONCERT TOUR 2019-2020"Beautiful People"】以来、実に約3年半ぶりということもあり、その内容やツアータイトルを含めて話題を呼び、急遽9公演もの追加公演が決定するほどの大きな注目を集めていた。 まず、本人が「珍しいタイトル」と自称するツアータイトル『佐藤さん、いつものでよろしいですか?』だが、MCでは、“佐藤さん”とは、日本でいちばん多い苗字である“佐藤さん”を代表して呼びかけた名前であることが説明された。続く、“いつものでよろしいですか?”の“いつもの”とは、本人曰く、「コロナ禍ではボサノヴァやラヴァーズロックをやってきましけど、今回はそれとは違いますよ。“いつも”の感じのグルーヴィー・ポップス、久保田利伸ポップスをやりますよ」という意思表明だという。 どうして“王道”なのかというと、コロナ禍を経た久しぶりのホールツアーであることに加えて、今回はニューアルバムを引っ提げたツアーではないうえに、2025年にはデビュー40周年というアニバーサリーを迎えるというタイミングであるという3つの要因があげられる。2025年1月まで続くツアーなので詳細な内容には触れないでおくが、80年代、90年代、2000年代、2010年代という各年代のヒット曲が並ぶ中に、2019年にリリースされた、現時点では最新にして19枚目のアルバム『BEAUTIFUL PEOPLE』や、近年のコンサート【Bossa & Lovers Rock Night】の世界観を散りばめ、今年4月に3年8か月ぶりの新曲としてデジタル・リリースされた「the Beat of Life」を加えることで、久保田利伸のヒストリーを網羅した、まさに王道で贅沢なセットリストになっていた。 そして演出面だが、ステージ上にはシンプルなやぐらが組まれているだけで、大掛かりなセットや美術は何も施されていない。だが、コーラス隊を含む9人編成のバンドによるファンキーなグルーヴに、独特のリズム感を湛えた久保田利伸のしなやかな歌声が重なり、そこに4人のダンサーがジャージ姿で踊り出すと、ステージは一瞬にしてブロンクスの路上となる。はたまた、ラスベガスのショーのようなきらめくドレスを身につけて踊り、会場をディスコに様変わりさせたかと思えば、激しく腰を振るトゥワークでニューオリンズからロサンゼルスのビーチへと風景を変えていく。開演前にオープニングDJとして登場して、スライ&ザ・ファミリーストーン「エブリデイ・ピープル」、ブラック・アイド・ピーズをフィーチャリングしたセルジオ・メンデス「マシュ・ケ・ナダ」からブルーノ・マーズ「24K・マジック」で会場のテンションを上げたDJ DAISHIZENや、久保田に「トークボックスをうまく吹けるのは日本でたったふたりしかない。そのふたりが今日はステージに立っています」と紹介されたキーボードの柿崎洋一郎とGakushiをはじめとしたミュージシャンやダンサーたち自体が、最も重要な演出そのものとなっていた。 バンドメンバーを紹介した後のMCでは、2025年にデビュー40周年を迎えることに触れ「40年間、僕の音楽を聴いてくれて、愛してくれてありがとうございます」と演歌歌手のように丁寧にゆっくりとお辞儀をしながら感謝の気持ちを伝えると、場内からは温かく大きな拍手が湧き起こった。さらに、「来年、40周年ツアーを盛大にやるという噂も聞いております」とアニバーサリーツアーの開催をほのめかした。実は、あの曲とあの曲とあの曲も聴きたかったと思ったのだが、それは、この後に控えている40周年ツアーまでのお楽しみということだろう。 この日の最後に、久保田が「世界中を連れ回りたいと思うくらいファンキーで、音楽が好きで、あったかくしてくれて。これ以上、求めるものがありません」と笑顔で語るほど、会場は盛り上がっていた。ステージから鳴らされるニュー・ジャック・スウィングやファンクに合わせて観客それぞれが自由に踊り、体を揺らし、メロウなソウルバラードや甘美なR&Bにうっとりと身を委ね、時には(ライブ序盤から!)GO-GOでダンスバトルも繰り広げる。本人曰く「ニューヨーク滞在中のホテルで、階下のパーティーの喧騒を聞きながら選曲した」という本ツアーは、ミュージック・ラバーが集う、まさにパーティーのように楽しいライブとなっていた。終演後、改めてツアータイトルについて考えてみると、“佐藤”さんは鈴木でも田中でも高橋でもいいのだが、本ツアーにおいては、“パーティーピープル”や“ミュージックピープル”、“ファンキーピープル”に変換できるだろう。つまり、『佐藤さん、いつものでよろしいですか?』とは、『日本全国にお住まいのパーティーピープルのみなさん、久しぶりのホールツアーは久保田利伸の王道をやります!』と全ての音楽好きに呼びかるツアーになっているのだ。 Text:永堀アツオ Photo:入日伸介 ◎公演情報 【TOSHINOBU KUBOTA CONCERT TOUR 2024-2025 『佐藤さん、いつものでよろしいですか?』】 2024年10月17日(木) 東京・NHKホール