福原遥は今後が楽しみな役者の筆頭だ 芸歴20年目を前に遂げた進化
福原遥が主演を務める『マル秘の密子さん』(日本テレビ系)では、九条開発の社長に就任した夏(松雪泰子)が突如、密子(福原遥)にクビを言い渡し、物語は急転直下のクライマックスを迎えている。 【写真】場面カット(複数あり) 本作は、トータルコーディネーターの密子が平凡なシングルマザーの夏を社長にするという名目で九条開発に潜入し、前社長・謙一(神保悟志)の秘書だった姉・鞠子(泉里香)の死の真相を追う物語。サクセスストーリーと、サスペンスドラマの両面で楽しめる“リバーシブル”なドラマだ。登場人物もみな表と裏の顔を持っており、実力のある俳優陣が巧みにその二面性を表現している。 なかでも視聴者を大いに驚かせたのが、主演の福原だ。トータルコーディネーターという職業柄、ファッションにこだわりとセンスを感じさせる密子。福原は印象を固定化させない多系統の衣装を着こなすとともに、さまざまな表情を見せてくれた。 子役時代にNHKの子ども向け料理・食育番組『クッキンアイドル アイ!マイ!まいん!』に出演し、子どもから大人まで幅広い世代から“まいんちゃん”の愛称で親しまれた福原。番組卒業後も多くの人がその成長を見守り続けた福原は、2022年にオーディションで朝ドラ『舞いあがれ!』(NHK総合)の主演・岩倉舞役を射止め、国民的ヒロインの地位を確固たるものにした。 舞は子どもの頃は体が弱く内気な少女だったが、成長してからは周囲の反対を押し切っても自分の意志を貫き通そうとする。『18/40~ふたりなら夢も恋も~』(TBS系)で演じた有栖もごく普通の大学生ながら、子供を妊娠し、出産と夢を両立させる道を諦めずに模索するひたむきなヒロインだ。いずれの作品においても、大人しい雰囲気の中に意志の強さを潜め、それが徐々に溢れ出してくる福原の演技が印象的だった。 対して、今回は序盤からアクセル全開。密子は凍りつくような笑顔を浮かべ、言葉巧みに相手を煽ったり、弱みに漬け込んで意のままに操ったりと、意外性のある福原のダークヒロインっぷりが大きな話題となった。だが、それは真の姿ではなく、密子は弱さや脆さも秘めているキャラクターだ。 それが顕著に現れたのは、夏の夫・丈晴(山中聡)が金目当てで九条開発に押しかけてきた第4話だろう。密子はすぐに排除しようとするが、夏を邪魔に思う九条家の人間にけしかけられた丈晴は酒を呑んだ勢いで会社に乗り込み、暴れ始める。 そんな丈晴の姿を見て、密子は父親から暴力を受けていた幼少期の記憶がフラッシュバック。その場では恐怖で身体が硬直して動けなくなるも、暗い衝動に突き動かされて、丈晴を拉致しナイフを突き付ける。まばたきすることも許されないほど、鬼気迫る福原の演技に驚かされた人も多いだろう。だが、丈晴に「おまえに殺しなんてできねぇよ」と挑発されると、再びその瞳は恐怖に濡れる。 「あなたが変われば、世界は変わる」という決めぜりふで夏をはじめ多くの人に魔法をかけてきた密子だが、本当に変わりたかったのは自分自身なのだろう。理不尽な暴力に怯えるのではなく、いつも自分をかばってくれた姉を守れるくらい強い人間になりたかったという一心で己に暗示をかけていただけ。その魔法が夏の「私があなたの分まで、ちゃんと痛がるから、あなたはもう苦しまなくていい」という言葉で解け、ダークヒロインから等身大のヒロインへ。以降は表情や雰囲気にも柔らかさが出た。福原はこの役でどんどん人間味を帯びていく演技を見せており、これまでとは真逆のアプローチであることが分かる。 しかし、姉の死の真相にたどり着くまであと一歩のところで信じていた夏に裏切られてしまった密子。第9話の予告では復讐に燃える密子の姿が映し出されており、その最終形態に注目が集まる。 9月16日配信開始となったABEMAオリジナルドラマ『透明なわたしたち』でも主演を務める福原。同作ではずっと夢だった週刊誌のライターになったものの、理想と現実とのギャップに苦しむ主人公・碧役で大人の憂いを帯びた演技を見せている。福原は来年で芸歴20年。年齢とともに着実に進化を遂げており、今後がますます楽しみな役者の一人だ。
苫とり子