「体重計から始まった」 タニタに聞いた 日本人の健康意識“進化の歴史”
体脂肪を測る手段に苦戦
90(平成2)年には体重科学研究所・ベストウェイトセンターを開設。「当時、医師たちが、肥満とは体重が重いということではない、と言い始めたことがきっかけでした」。西澤さんは、大学で栄養生理学を学んでいたときから、同社で研究に携わることに。そのころ、体の脂肪を測るには「水中体重法」という手法を使っていました。 アルキメデスの原理を用いた「水中体重法」は、被験者が肺の空気を吐ききって、頭まですっぽりと全身を水中に沈めて測定しなくてはいけません。正確な数値を取るためには肺の残気量を事前のテストで調べるなど計測には専門的知識が必要で、手間がかかり、「お年寄りや子どもには負担が大きい」(西澤さん)など、多数問題点があったといいます。 一方で、人の体に電極を付け、電流の流れやすさを数値化することで筋肉や脂肪の量を測定するBIA(Bioelectrical Impedance Analysis、生体電気インピーダンス法)と呼ばれる方法の研究も進んでいました。こちらは、横たわっている被験者の腕や足に電極を付けて計測しましたが、寝起きの動作で体内の水分が移動したり、電極の密着度に差が生じるなど、数値の変動が大きい、という課題を抱えていました。
生活習慣病、メタボリック症候群……社会全体が体重以外の数値に着目
「体重計に電極を載せてみたらどうだろう」。こうした難問だらけの状況を打開したのが技術者の発想だった、と西澤さんは振り返ります。 体重計と同じ、立ってBIAを測定する方法には、思わぬ効果がありました。測定時の被験者の状態をそろえることが可能になった上に、体重の重みで電極と体がしっかりと接着するようになったことで、変動幅が大きかった測定値が安定。同時に体重測定できるという面もメリットでした。そして、今までの水中体重法で得た知見を生かした計算式をBIAで得た数値に用いることで92年、世界初となる業務用体内脂肪計の発売にこぎつけます。 2年後の94年には、家庭用の脂肪計付きヘルスメーターを4万円で販売開始。翌95年に2万円に値下げした普及版は大ヒットとなります。「テレビでも健康を取り上げる番組が増え、健康に関する知識や関心が広がりだしたことも背景にあったと思います」(西澤さん)。 ちょうど97年には、厚生省(現厚労省)が「成人病」の名称を「生活習慣病」に変更。脳卒中や高血圧症などの発症を生活習慣から予防するという意識の定着を目指し始めました。また、内臓脂肪が病気を引き起こすリスクも盛んに警鐘されるようになり、05年には、メタボリック症候群の診断基準が策定されるなど、健康管理のために体重以外の数値に着目した時期と重なりました。 西澤さんたちは呼気ガス分析やCTなどで得たデータを次々と反映し、この後も、内臓脂肪レベルを測ることができる体脂肪計(2001年)、基礎代謝を測ることができる体を脂肪計(02年)、さらに筋肉量、推定骨量までも測定できる体組成計(03年)など毎年のように世界初の商品を開発。「当時は会社に寝泊りする勢いでした」と話します。