闇組織の”ボス”の正体はまさかの…安達祐実”祐子”の驚くべき才能とは? ドラマ『3000万』第7話考察レビュー
何もかもが反転した第7話
この第7話は、何もかもが反転するような回だ。これまでは対立関係だった祐子と坂本たちが手を組んだことも、凶悪で恐ろしい人物を想像していたボスが一見普通の中年女性だったことも、いざとなったら祐子より義光の方が冷静だったこともそう。 そして何よりも驚きだったのは、祐子が見せる意外な才能だ。当初は自分たちの手には負えないとソラの提案に乗り気でなかった坂本の心を動かしたのは祐子。トップが中年女性であることを誰も知らなかったのは、組織が小さく匿名性が守られているからではないかと深い洞察を見せる。 さらには祐子の提案で、闇バイトとして雇われていた人たちを総動員した結果、ボスの正体を突き止めることに成功した。報酬は、組織からの解放。お金欲しさに罪を犯し、後悔している祐子だからこそのアイデアだ。 人の才能はどこに眠っているかわからない。現に、普通のパート主婦で周りから舐められやすかった祐子にこれだけの力が眠っているとは誰も思わなかったはずだ。 やっていることの是非はともかく、誰かと協力して何かを成し遂げようとする中で、その人にしかない個性や才能が炙り出される。それは、それぞれの作家性を活かし、ハイブリッドで上質な作品を生み出そうとする、この“WDRプロジェクト”そのもののあり方と重なる。
まさか坂本(木原勝利)の印象がこれほど変わるとは…。
また祐子に負けず劣らず、このエピソードで大きく印象が変わったのが坂本だろう。組織で這い上がるために、自分の弱みである怒りっぽい性格を変えようと、アンガーマネジメント講座や写経で感情のコントロールに努めるなど、意外と実直で人間味もある坂本。 だが、依然としていつ爆発するか分からない怖さは残っていたが、意外と冷静で常識的なことがわかる。坂本は大津に始末するように言われていたソラを逃がしていたし、祐子を脅しはしたものの、本当に純一を拐うつもりはなかった。 それは報酬とコストを天秤にかけ、割に合わないと判断したからに過ぎないが、ただ闇雲に人に危害を加える人間ではないということだけは分かる。祐子を心配するソラにかけた「情はやっかいだぞ、目が濁る」という言葉には、過去の反省も混じっているように思えた。 あるいは大津が捕まってからしばらくの間、ホテルにこもって写経に努めていた成果が現れているのかもしれない。そういう変に真面目で不器用なところが我々からすると愛らしく感じるが、出世につながらない理由でもあるのだろう。 本当に怖いのは、何を考えているか全く読めない人間。祐子たちの動きに気づいていた末次の策略にハマり、坂本は逮捕されてしまう。 司令塔を失った3人はそれでもこの作戦を続けるのか。長田や義光がまだ知らない、蒲池(加治将樹)の一件も新たな火種になりそうな予感だ。人を一人死なせてしまったという大きな罪が、このまま無かったことになるわけがないだろう。 次週、ついに最終回。次々と予想外の出来事が起きる本作から最後まで目が離せない。 【著者プロフィール:苫とり子】 1995年、岡山県生まれ。東京在住。演劇経験を活かし、エンタメライターとしてReal Sound、WEBザテレビジョン、シネマズプラス等にコラムやインタビュー記事を寄稿している。
苫とり子